第2話 JAMSTECへの道 前編
その2 深海か、毒か
22歳の夏を迎えていたボクも、実は最初に心に刻み込んだ「生命の起源や太古の生命」というキーワードを忘れたことはなかったが、超好熱菌の研究の拡がりを知るうちに、誰も見つけたことのない世界最高温度で生きる超好熱菌を見つけて、そいつのタンパク質がなぜ高温で働くかということを明らかにしたい。そんな気持ちで研究にのめり込み始めていた。
そんなある日、左子先生が「タカイ君、朗報やで」と、ある学術集会の情報を教えてくれた。近々やってくる8月に、ボクの中では正体不明の研究所、JAMSTECで深海熱水や深海底の微生物に関する国際ワークショップが開かれるというのだ。案内をよく見るとボクの憧れのカール・シュッテッターや大島泰郎といった超好熱菌研究の超大物がいるではないか。その他にも世界的に有名な微生物学者が勢揃いだった。スゲェなー、JAMSTEC。左子先生もそのワークショップに招待されていたのだった。
「あそこは読売ジャイアンツみたいな金満球団だからな」
左子先生はイヤミを一つ言ってニヤッと笑った。
そして、その招待講演者の中に留学希望先であったワシントン大学海洋学部のジョン・バロスの名前もあった。左子先生は言った。
「この集まりで、ジョン・バロスと直接話をして、留学の件まとめてしまおう」
そんなワケで、ボクははじめて正体不明の研究所、JAMSTECに行くことになった。ボクは、そのJAMSTEC訪問の旅のことを今でもハッキリ覚えている。それは、ボクが初めて、研究者としての自分を、日本を、そして世界を、強烈に意識したきっかけになった出来事だったからだ。あの、とても暑かった夏の日のことを。
つづく(次回、撃沈!)

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384ページ・本体1600円+税
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高井 研(たかい けん)
1969年京都府生まれ。京都大学農学部の水産学科で微生物の研究を始め、1997年に海洋研究開発機構(JAMSTEC)の研究者に。現在は、同機構、深海・地殻内生物圏研究プログラムのディレクターおよび、プレカンブリアンエコシステムラボラトリーユニットリーダー。2012年9月よりJAXA宇宙科学研究所客員教授を兼任。著書に『生命はなぜ生まれたのか――地球生物の起源の謎に迫る』(幻冬舎新書)など。本誌2011年2月号「人物ファイル」にも登場した。
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