第5回 3つの手がかり

 行き先が決まると、次に考えたのは旅の期間でした。

 ジムに会うためにかかる日数……そんなこと予測できるわけがありません。相手は世界中で取材をしている写真家です。もしかしたら長期の取材で家を空けているかもしれない。とにかくできるだけ長くアメリカにいたいと思って調べてみると、ビザなしでアメリカに滞在できるのは3カ月までということでした。そこで、限度いっぱいの航空チケットを買うことにしました。

 一番安いチケットだったので、帰りの日は動かせません。3カ月、なにがあろうと帰国しない。もちろんジムを困らせるつもりはありません。万一会えたとしても、弟子入りを断られたら、素直に従うつもりです。もともと無茶なお願いをしているのはこっちなのだから当然です。その場合はそのままミネソタに残り、オオカミとの出会いを求めて旅を続けるつもりです。

 旅に持って行くザックは、山登りで使っていた一番大きなものを用意しました。一人用のテントやシュラフ、調理用ストーブ、雨具などキャンプ道具をぎっしりとつめ、さらに、カメラと、米やインスタントみそ汁をつめると、全部で重さが35キロになりました。

 3カ月間も宿に泊まるような予算は持ち合わせていません。でも、ジムの住んでいるあたりの森林地帯まで行けば、きっと自然がたくさんあって、キャンプをして過ごすこともできるでしょう。森で迷わないようにコンパスもきちんと忘れずに持ちました。

 旅の計画について、ほとんど誰にも話しませんでした。家族やごく親しい友人に行き先と期間を告げただけです。

 夢で見たオオカミを追って、約束もないのにジム・ブランデンバーグという写真家に会いに行く……。そんな話、いったいどうやってすれば良いのか、よくわからなかったし、それになぜか、あまり人には言いたくなかったのです。言葉にしたとたん、あのオオカミの夢からもういちど覚めてしまうような、そんな気がしていたのかもしれません。

 5月27日。出国の当日。久しぶりに背負う大きなザックは、肩にずっしりと重く、少し歩くだけで額に汗がにじみました。でも、その一歩は、自分の足でしっかりと立っている感じがして、とても気持ちのいいものでした。

つづく

大竹英洋

大竹英洋(おおたけ ひでひろ)

1975年生まれ。写真家。一橋大学社会学部卒業。1999年に米国のミネソタ州を訪れて以降、北アメリカ大陸北部に広がる湖水地方「ノースウッズ」の森に魅せられ、野生動物や人々の暮らしを撮り続けている。主な著書に『ノースウッズの森で』(「たくさんのふしぎ傑作集」)、『春をさがして カヌーの旅』(「たくさんのふしぎ」2006年4月号)、『もりのどうぶつ』(「こどものとも 0.1.2.」2009年12月号)(以上、すべて福音館書店)などがある。また、2011年3月NHK BSの自然ドキュメンタリー番組「ワイルドライフ カナダ ノースウッズ バイソン群れる原生林を行く」に案内人として出演。近著は「森のおく 湖のほとり ノースウッズを旅して」(月刊 たくさんのふしぎ 2012年 09月号)
本人によるブログは「hidehiro otake photography」