第1回 20億ドルの望遠鏡、実は「ちょっとピンぼけ」だった?

 1994年1月、私はたまたまアメリカ天文学会に参加していました。その中で、まさに修理を終えたばかりのハッブル宇宙望遠鏡のセッションが開かれ、注目を集めていました。最新のデータに期待していた天文学者が大勢集まり、立ち見が出るほどで、会場はたいへんな熱気に包まれていました。

 最初の発表者が、修理前のデータのスライドを見せた後、一呼吸おいて、修理後のデータに差し替えた瞬間、私はあっと息をのみました。いままで見たことのない鮮明な画像、そこから得られた詳細なデータが示されていたからです。

1993年12月に行われた修理の前(左)と後(右)にハッブル宇宙望遠鏡が撮影した渦巻銀河M100。修理によって、解像度が劇的に改善したことが一目でわかる。(NASA、2点とも)

もちろん、会場は大きなどよめきとスタンディングオベーションに近い、盛大な拍手に包まれました。あの興奮を、いまでも忘れることはできません。これから人類が誰もまだ見たことのない宇宙の姿が、このハッブル宇宙望遠鏡で解き明かされていくんだなぁ、と思った瞬間でした。そして、この予感は当たっていたのです。
(続く)

渡部 潤一(わたなべ じゅんいち)

渡部 潤一(わたなべ じゅんいち)

1960年、福島県生まれ。
1987年、東京大学大学院、東京大学東京天文台を経て、現在、自然科学研究機構国立天文台天文情報センター・広報室長、教授、総合研究大学院大学教授。理学博士。  流星、彗星など太陽系天体の研究のかたわら、最新の天文学の成果を講演、執筆などを通してやさしく伝えるなど、幅広く活躍している。すばる望遠鏡建設推進の一翼を担い、2006年の国際天文学連合では、惑星定義委員として準惑星という新しいカテゴリーを誕生させ、冥王星をその座に据えた。また、2010年には、国立天文台はやぶさ観測隊を組織、再突入の観測で成果をあげた。

主な著書に『新しい太陽系』(新潮新書)、『ガリレオがひらいた宇宙のとびら』(旬報社)、『星空からはじまる天文学入門』(化学同人)、『太陽系の果てを探る』(東大出版)、『太陽系大地図』(小学館、共著)など。