最後の話題としてふさわしいのは、「弟子入り」して子ども目線にこだわってきた亀井さんが、今後の研究について持っている壮大な夢だろう。

 まずは、「アフリカ子ども学」。

「文化人類学者達は、特定の民族の地域に入って研究する分、その民族、その集団だけに目を奪われがちです。でも、多分、子どもがやってる行動っていうのは、似てるところが多いと思うんですね。民族とか文化、環境を問わず。子ども学とあえて言うからには、子どもが何を考え、どんなことを夢見ているのかを見ていきたいんです。町に出た子ども、農村で暮らしている子ども、ラクダと共に砂漠で遊牧している子ども、アフリカにはいろんな文化や環境があります。そんな中でも、子どもたちは、きっと将来何になりたいとか色々考えてるはずでしょう。それを子どもたちから学びたい。教育とか、労働とか、環境とか、大人目線で語られていたものを、ひとつずつ子どもの目線で考え直していくって、とってもワクワクします」

 そして、視線はさらに「世界」に向いている。

「世界には、子どもの遊びについての文化人類学の資料はたくさんあって、集めているんですよ。すごく勉強になります。でも、子どもが遊びを通して大人になっていくとか、心理的な葛藤を和らげる効果があるとか、遊びへの解釈って、何かの役に立っているだろうっていうのが前提なんですね。でも、それは、大人側に都合のいい解釈ですね。面白いから遊ぶという子どもの視点を大事にして、世界の子どもの遊びの百科事典をつくれたらいいですね」

「子ども学」にせよ「百科事典」にせよ、実に壮大な夢ではないか。そんな大風呂敷は、良い意味で、実に「子どもっぽい」ではないか。

 ぼくも正直ワクワクする。

おわり

亀井伸孝(かめい のぶたか)

1971年、神奈川県生まれ。愛知県立大学外国語学部国際関係学科准教授。理学博士。手話通訳士。専門は文化人類学、アフリカ地域研究。1996年からカメルーンにおける狩猟採集民バカの子どもの研究を始め、あわせてアフリカの手話とろう者に関する研究に携わる。著書に『手話でいこう-ろう者の言い分 聴者のホンネ』(ミネルヴァ書房、2004年)、『アフリカのろう者と手話の歴史-A・J・フォスターの「王国」を訪ねて』(明石書店、2006年)、『手話の世界を訪ねよう』(岩波ジュニア新書、2009年)、『森の小さな〈ハンター〉たち-狩猟採集民の子どもの民族誌』(京都大学学術出版会、2010年)など。
ホームページは「亀井伸孝の研究室」。ツイッターのアカウントは@jinrui_nikki


川端裕人(かわばた ひろと)

1964年、兵庫生まれ。作家。98年、小説『夏のロケット』で第15回サントリーミステリー大賞を受賞。少年たちの川をめぐる物語『川の名前』、自身の体験を元にした『PTA再活用論 ──悩ましき現実を超えて』、感染症制圧の10日間を描いた小説『エピデミック』(角川文庫)など、多岐のジャンルにわたり多数の著書がある。近著は『イルカと泳ぎ、イルカを食べる 』(ちくま文庫)。
著者自身によるブログは「リヴァイアさん、日々のわざ」。ツイッターのアカウントは@Rsider

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