「それから、子どもたちがいろいろ物を持ってきて、「ノブウ、デデ」って言うようになりました。「デデ」っていうのは絵を描いてっていうお願いなんですね。それで、5分か10分ぐらいでバーッと描いて。同時に言葉も教えてもらって。カニは「カラ」っていうんですね。で、これは「おいしい」ってのは「ジョコ」ってふうに──」

 言葉が不自由な初期段階は、このスケッチに随分助けられて学びつつ調査が進んだという。

 もっとも、ある時、森で採集した蜂の巣を分配してもらって、スケッチに熱中していると、まわりはいつの間にか蜜の匂いにつられた蜂だらけになっていたそうだ。火をおこして煙で蜂を追い払うのに集落中大騒動になってしまったという。熱中もほどほどにということ。

 そんな失敗もありつつ、スケッチには、言葉によらないコミュニケーションの他にも、さまざまな利点があると亀井さんは気づいた。亀井さんは文化人類学の世界に飛び込む前には、自然科学系の勉強をしていたわけで、生物学や地学で行われるスケッチの重要性は認識していた。それが、やはりこのような社会調査でも役に立つことを発見した。

 具体的に言うなら、写真を撮るのでは目が行き届かない細部をしっかり捕らえ正確に理解できることなど。これは生物学や地学でのスケッチと同様。

 一方、社会調査特有の利点として、調査対象との信頼関係(ラポール)の形成がある、という。先にも述べたように、絵を描くと受ける。さらに、子どもたちが次々と「デデ」とねだってきたように、調査を円滑に行うきっかけにもなった。

ブルーダイカーというウシ科の哺乳類。確かにうまい。(画像クリックで拡大)
これはイス。写真より味わい深いと思いませんか?(画像クリックで拡大)

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