第3回 弟子入りで世界は変わる

アフリカの子どもたちの話をするときの亀井さんは実に楽しそうだった。(写真クリックで拡大)

 もっとも、描きためたスケッチ帳を繰りながら亀井さんが浮かべる表情を見ていると、研究うんぬんは抜きにして「思い出」として「記憶」として、写真よりも貴重なものに思えるのではないか、という気もしてくる。

 とんでもなく私事になって恐縮なのだが、ぼくには3歳違いの子どもが2人いて、上の子が6歳になった時から、3年ごとに「ちょっと遠く」に子連れ旅をしてきた。1度目は6歳になった息子と2人で南米のフォークランド諸島へ。2度目は9歳になった息子と6歳になった娘と一緒にニュージーランド亜南極の島々へ、といったふうに。ぼくは写真を撮るのだが、子どもたちには必ず、スケッチを描かせた。正直にいって、今のぼくにとって、自分が撮った写真より、子どもたちのスケッチの方が宝物だ。将来、子どもたちもそう感じるようになるかもしれない。

 ちょっと脱線が過ぎたか。

 いずれにしても、亀井さんの「弟子入り」法は、ぼくたちの日々の生活を稔り豊かなものにするためにも、学ぶべき点がある気がしてならない。

 興味があるコミュニティがあるなら、とにかくプライドなど捨てて「弟子入り」してしまうこと。

 そして、アナログなスケッチなど(手話コミュニティなら、手話の他にジェスチャーや筆談も使えるだろう)、コミュニケーションツールを工夫して活用すること。

 こんなことを念頭に置いておけば、「弟子入り」の道は、きっといろんな方面に拓けている。

つづく

亀井伸孝(かめい のぶたか)

1971年、神奈川県生まれ。愛知県立大学外国語学部国際関係学科准教授。理学博士。手話通訳士。専門は文化人類学、アフリカ地域研究。1996年からカメルーンにおける狩猟採集民バカの子どもの研究を始め、あわせてアフリカの手話とろう者に関する研究に携わる。著書に『手話でいこう-ろう者の言い分 聴者のホンネ』(ミネルヴァ書房、2004年)、『アフリカのろう者と手話の歴史-A・J・フォスターの「王国」を訪ねて』(明石書店、2006年)、『手話の世界を訪ねよう』(岩波ジュニア新書、2009年)、『森の小さな〈ハンター〉たち-狩猟採集民の子どもの民族誌』(京都大学学術出版会、2010年)など。
ホームページは「亀井伸孝の研究室」。ツイッターのアカウントは@jinrui_nikki


川端裕人(かわばた ひろと)

1964年、兵庫生まれ。作家。98年、小説『夏のロケット』で第15回サントリーミステリー大賞を受賞。少年たちの川をめぐる物語『川の名前』、自身の体験を元にした『PTA再活用論 ──悩ましき現実を超えて』、感染症制圧の10日間を描いた小説『エピデミック』(角川文庫)など、多岐のジャンルにわたり多数の著書がある。近著は『イルカと泳ぎ、イルカを食べる 』(ちくま文庫)。
著者自身によるブログは「リヴァイアさん、日々のわざ」。ツイッターのアカウントは@Rsider