第2回 遊びたおそう!

 閑話休題。

 亀井さんの遊びのエピソードで最も印象的に感じたものを書き留めておく。

 狩りのまねごとの後、大人たちが肉を分配するのをさらにまねる、という場面に亀井さんは出くわした。

 獲物は弓矢で捕まえたクモだ。バカは、クモを食べる習慣はないようなので、これは完全に獲物に見立てているのだ。

 ちなみに、バカは動物のことを「ソ」と呼ぶ。同時にそれは「肉」を意味する。森は食料の貯蔵庫で、必要な時に肉を取りに行く感覚。だからあまり備蓄もしない。これはめぐりめぐって、現在の日本人のコンビニに対する感覚と似ていると看破した文化人類学者の先輩がいるという。

 なにはともあれ、「ソ」に見立てられた、クモの件。

「獲物のクモを持ち帰ると、他の子たちが寄ってきて、大人がするのと同じように解体作業を始めたんです。ナイフに見立てた木の皮で脚を切り離そうとして、実は真似だけでほとんど手で引っこ抜いているんですが……。そして、解体し終わったらそのままガツガツ食べる真似をする子がいたり、煮込み料理を作る真似をしたり。私にも脚を分配してくれました」

 当然、亀井さんも食べる真似をしたという。

 狩猟ごっこであり、ママゴトでもあり、また、なによりバカの「分配の伝統」を忠実に守っている。微笑ましく、また、不思議に愛しくも感じられるエピソードなのだった。

つづく

亀井伸孝(かめい のぶたか)

1971年、神奈川県生まれ。愛知県立大学外国語学部国際関係学科准教授。理学博士。手話通訳士。専門は文化人類学、アフリカ地域研究。1996年からカメルーンにおける狩猟採集民バカの子どもの研究を始め、あわせてアフリカの手話とろう者に関する研究に携わる。著書に『手話でいこう-ろう者の言い分 聴者のホンネ』(ミネルヴァ書房、2004年)、『アフリカのろう者と手話の歴史-A・J・フォスターの「王国」を訪ねて』(明石書店、2006年)、『手話の世界を訪ねよう』(岩波ジュニア新書、2009年)、『森の小さな〈ハンター〉たち-狩猟採集民の子どもの民族誌』(京都大学学術出版会、2010年)など。
ホームページは「亀井伸孝の研究室」。ツイッターのアカウントは@jinrui_nikki


川端裕人(かわばた ひろと)

1964年、兵庫生まれ。作家。98年、小説『夏のロケット』で第15回サントリーミステリー大賞を受賞。少年たちの川をめぐる物語『川の名前』、自身の体験を元にした『PTA再活用論 ──悩ましき現実を超えて』、感染症制圧の10日間を描いた小説『エピデミック』(角川文庫)など、多岐のジャンルにわたり多数の著書がある。近著は『イルカと泳ぎ、イルカを食べる 』(ちくま文庫)。
著者自身によるブログは「リヴァイアさん、日々のわざ」。ツイッターのアカウントは@Rsider