第8話 ようこそアニマルファミリーへ?

 げじげじ髭のボスは、牧場主としての仕事と馬の調教の傍ら、家庭電気製品の修理屋を営んでいて、名前をウイリアムという。
 この名の愛称は、昔からビルと決まっていて、彼も例外ではなく、みんなから「ビル」と呼ばれていた。

 私が、この二人に出会ったのは、前にも書いたように、ロトルアという街の小さな競馬場である。

 毎朝、二十頭ほどの馬が調教のために走りに来ているだけで、厩舎は、簡単なコンクリート張りという、一流の馬を扱うことなど、はじめから考えていないような、いかにも田舎の施設だった。

 なぜ、そんな所に、私がやって来たのかというと、なんの当てもない私は、まず地図を広げたのだ。そして、競馬場のトラックを意味する楕円の形を探した。

 そこに行けば、馬がいる。馬がいるということは、牧場の関係者がいる。きっと働かせてくれる牧場も見つかるに違いない。そんな、単純な思いつきだった。

 地図にはもちろん、大きな都市の立派な競馬場も載っていたが、私はファンシーな高級レストランよりも、使い古したのれんがかかる、明かりがぼんやり灯るだけの舟唄的なお店の方が好きなのである。

 それに、ロトルアという街は、いたるところに湯けむりが出ている地熱地帯にあって、この競馬場の周りにも、デンジャー(危険)を意味するマークが付けられた噴気孔がいくつも地図に記載されていた。

 これはきっと、危険火山地帯湯けむりもんもん競馬場に違いない。

 怪しい場所を見つけると、ついつい好奇心で足が向いてしまう私は、「これは、行くしかない!」と思ったのだ。

 競走馬の調教は、朝が早い。
 かなりの運動量を走らせるために、気温の低い時間帯に行われるのだ。

 だから私は、まだ太陽も昇っていない、朝の四時に、その怪しい競馬場に行ってみることにした。

 すでに馬が数頭到着していて、走る準備をしていた。白々とした朝霧と湯けむりが、うっすらとかかっていた。

 地図に書かれていたようなデンジャーマークの噴気孔を、馬たちが走るトラックのすぐ横で見つけた。

 ぱっくりと大きな口を開けて、水蒸気をもんもんと上げていた。底には粘土質の土が、ボコボコと音を立てながら煮だっている。
 有毒なガスが発生しているようで、周りの木々が灰色に変色して立ち枯れていた。

 その噴気孔の底を覗き込んでいると、
「ロトルア殺人事件っていうのを知っているか?」と、通りがかりの男性が、私に声をかけた。
 もちろん知る由もないので、「それは、何ですか?」と尋ねると、
「この町で起こる殺人事件の多くは、銃やナイフじゃないんだよ。気に入らないヤツは、その沸騰した沼に突き落とせばいい。溶けて死体もあがらないのさ。完全犯罪という訳さ。この街には、たくさんそんな沼があるんだよ。がっはっはっはっ!」と、彼は笑うのだった。

 それが、後にお世話になることになる、げじげじ髭のボスである。