第1話 実録!有人潜水艇による深海熱水調査の真実

その4  その瞬間、全身に稲妻が走った

「よこすか」からは、「どうなっているか状況を知らせよ!」という通信がくる。たとえ「今すぐ、浮上せよ!」という指令がきても、ボクが今パイロットだったら「誰が浮上するか。もうちょっとこの風景を堪能してから・・・・・・」と言うに違いない。そして、十分幸せな気持ちで満たされてから、本来の指定席であるヤナギタニさんと交替する。もう十分落ち着いているので大丈夫だ。

それからボクらは、いつ「浮上せよ!」と言われてもいいように、見つけたばかりの白いスケーリーフットやアルビンガイや、様々な生物をなるべくたくさん採取した。現実には、広さ100m~200m四方ぐらいの熱水域の、ほんの20mぐらいしか観察できなかったわけだが。そして、着底してからわずか1時間半後に、「今すぐ浮上せよ!」という指令がきた。

ボクらは名残惜しい気持ちでいっぱいだったけど、ホントにベストを尽くしたこの潜航調査には、とても充実した気持ちだった。最後の最後のチャンスで、最大の目的をギリギリ達成することができた。

ヤナギタニさんが熱水域から30mぐらい離れて、「バラスト投棄!」と言いながら、重りを捨てた。するとボクらをのせたしんかい6500は、一瞬体が押しつけられる感覚とともに、みるみるうちに海底から遠ざかり、浮上を始める。

海底が見えなくなった。ボクは痛くなった首を伸ばしながら、張り付いていた観察窓から顔を離す。そして、浮上準備をする二人の仲間に目を移した。

今日という日を忘れないだろう。

朝からこんなにドキドキ、ハラハラ、ヤキモキ、ソワソワ、ビリビリ、ウヒョウヒョ、グッタリした日はなかった。コックピットの3人は、体に感じる疲労感と、それでも体の芯に残る高揚感を隠せない。浮上までの1時間半、ボクらにはたっぷり時間はある。イイジマさんが取り出した熱いコーヒーの素晴らしい香りと、ボクの取り出した「きのこの山」の甘いチョコレートの香りを楽しみながら、ワイワイ反省会だ。

さあ帰ろう。船上ではみんなが、ボクらと楽しみなサンプルの帰りを今か今かと待っているはずだ。