第1話 実録!有人潜水艇による深海熱水調査の真実

その4  その瞬間、全身に稲妻が走った

白いスケーリーフットを見つけたことの科学的な意義は、いろんな意味で大きい。

とにかく、広いインド洋の深海熱水には、人類が出会ったことのない未知生物がひっそりと生きているに違いなく、今この潜航調査で目の前に見える深海熱水は、ようやく4つめの熱水にすぎない。4つの深海熱水が見つかったことによって、インド洋独特の進化を遂げた化学合成生物がいくつも見つかっただけでなく、太平洋と大西洋に見つかっていた深海化学合成生物の進化の歴史に光を与えることができたのだ。

そんな熱い想いとは裏腹に、ヤナギタニさんのベタ付け駐車がマゴマゴしている。やばいぞやばいぞ「イラッ感」がわき起こってきた。ヤナギタニさん「なんかねー。うまく行かないんですよぉー。モゴモゴ」と弱音を吐く。

どうやら表情には表れていないが、あまりに時間がないというプレッシャーに軽くパニックを起こしかけていると案じた瞬間、イイジマさんが素早く言った。

「ヤナギタニ!代われ!」

潜航の編成上は、パイロットがキャプテンであり、最終意思決定者である。しかし、今のコックピットには、元しんかい6500潜航長だったベテランのイイジマさんがおり、そのイイジマさんがここは「自分がやった方がうまくいく」と判断したのだ。まさしく、ボクも同じ言葉を口にするところだった。

代わったイイジマさんはすかさず、しんかい6500をバックさせ、右側から再突入して、わずか5分でベストポジションにしんかい6500を着底させた。見事!ベストポジションで、映像をとり、写真をとり、採水・チムニー周りの生物採取をてきぱきこなす。

そして、採水中、イイジマさんと場所を変わり、ボクは真正面の特等席の観察窓から、目の前1mで、もうもうと噴き出すやや黒みを帯びた透明な熱水噴出を眺めることができた。

至福ナリ!視福ナリ!このパイロット用観察窓から見える深海の風景に勝る風景をボクは思い付かない。ボクの陳腐な文章では、ホントに表現しきれない。ずっと見ていたい。ただそれだけだ。