訓練と称して私は三匹の牧羊犬を放牧地へ連れていった。すると、後ろから「ガス玉よ!」と声がする。振り返ると、ブロンドの髪を風になびかせ、碧い目を輝かせているスージーだった。
放牧のローテーションを無事終えたものの、クリスティンは依然と失踪したままだった。
牧草地には、落ちてしまうような崖もなければ、落とし穴もない。むろん、クリスティンを食べようなどという危険な捕食動物もいない。
ニュージーランドでは、繁殖目的でない限り、飼い犬には、去勢や避妊を行う習慣がしっかり根付いているから、クリスティンが突然発情して、オスを求める旅に出てしまうことは考えられない。
これは、もしかして、家出? 蒸発? 駆け落ち?
なにが不満で、いなくなったのか分からないが、犬たちのご飯の時間になっても、まったく帰って来ないのだ。
結局、夕飯抜き!(これは、げじげじ髭のボスの指示ね)
ボスに聞くと、クリスティンは蒸発の常習犯だった。まったく、一番頼りにしていた犬なのに……。
「明日の朝になれば、ドロドロになって戻ってくるよ」
と言ったボスの言葉どおり、朝にはケロッとした顔で、ドロドロになって帰ってきた。
どうやら、ウサギを追って、巣穴を掘りながらトンネルの中を進んでいって、夜通し潜んでいたらしい。