ここで長谷川さんに聞いてみた。動物の生態を扱う学問を目指したのはなぜですか?

「小さいときの一時期、和歌山県の紀伊田辺という海の町で育ったことがあったんです。そのとき海で見た、イソギンチャクや魚などの生き物があまりに美しくて、夢中で図鑑をめくった。このときからですね。生物学者を目指したのは」

 多産は奨励しないまでも、そんな長谷川さんにとって、子供を持ちたいと思えない社会や、子供を持つことに楽しみを感じない社会は、幸せな社会とは言えないと言う。

「欧米ではイタリアの少子化が深刻だと聞きますが、あちらも女性の権利が戦後急速に広がったという日本との共通点がある。女性を中心にした家族ネットワークが、その結果、崩壊してしまうんですね。昔は地域や家族で手分けしておこなっていた共同繁殖のシステムが消滅して、女性は独立はしたけれど、孤立もしてしまった。それを補う制度の確立は必要でしょうね」

 ただし、子供をつくるというのはきわめて個人的なこと。制度が整っただけで、即変わるものではないとも考えている。

「動物であれば、何らかの欲望は必ず持ち合わせているはず。自分を高めたい、自分を楽しませたいという欲望を満足させるオプションのなかに、子供を育てたいという選択肢がラインナップされるよう、社会のムードが変わる日を待つしかないでしょう。処方箋? 今のところないですね」

 最後にひとつだけ、ちょっと余談を。

「もし草食系男子という特別な遺伝子が日本で突如生まれていたとしても、それは1代で終わり。闘争しない、繁殖しない遺伝子ですから、後世にはつながることも、増えていくこともありません」

 よかった・・・・・・と言うべきだろうか。

おわり

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長谷川眞理子(はせがわ まりこ)

1952年東京生まれ。総合研究大学院大学教授。専門は動物行動学、行動生態学。タンザニアでチンパンジー、伊豆でクジャクの繁殖戦略や配偶者選択を調査、現在は動物からヒトまで幅広く行動生態を研究している。著書に『生き物をめぐる4つの「なぜ」』『進化生物学への道』『進化とはなんだろうか』『オスとメス 性の不思議』『クジャクの雄はなぜ美しい?』『雄と雌の数をめぐる不思議』『動物の生存戦略』など。


福光 恵(ふくみつ めぐみ)

1960年東京都生まれ。美術業界で働いたのち、フリーライターに。日経新聞プラス1「コトバの鏡」、アスキードットPC「自腹で大人買い」などの連載あり。

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