まず核家族化が進み、子育ては母親1人の肩に大きくのしかかっていった。同時に地域の結びつきも薄れて、何かのときに頼れる近所のおじさん、おばさんも、もういない。

「結局、子育てを手伝ってくれるメンバーがたくさんいた群れのシステムが崩壊して、共同繁殖をやってくれる体制が、地域の保育所くらいしかなくなってしまった」

 しかも現代の共同繁殖は、お金を支払わなければやってもらえない。その不安感から、母親も働かざるをえなくなる。と、こんどは、子供をじっくり育てる時間がなくなる。ますます不安感は増していく。

「でもそうやって苦労して育てた子供が、将来どれだけ幸せになるかは不透明です。いじめもあるだろうし、教育費はかかる、環境問題もある。いろいろ考えて、もう子供はいいやと考えてしまう女性も少なくないのです」

子育てを上回るオプション

 一方、こうして子供を持つことを諦めたとしても、繁殖のかわりに自分を満足させるオプションは、現代社会には山のように用意されている。習い事をしてもいい、旅行に行ってもいい。何より女性の社会進出が進んで、仕事の楽しさを知る女性が増えた。「もしかしたら子育て以上」のリターンがあるオプションが、現代社会にはいつでも手の届くところにある。

「昔の女性は、年齢がくれば結婚して子供を産むという選択肢しかなかった。ほかに自分を高めるオプションもない。たしかに、今なお人口が増加している途上国は、女性にとっての選択肢が少なく、生き方の自由度が少ない国が多いですね。そう考えると、現代の女性は、ある程度の自由を手に入れたと同時に、子供を産む、産まないという選択肢も手に入れてしまった。少子化には、そんな側面もあるのかもしれません」

「その4  「草食」はいても「草食系」はいません」へつづく

長谷川眞理子(はせがわ まりこ)

1952年東京生まれ。総合研究大学院大学教授。専門は動物行動学、行動生態学。タンザニアでチンパンジー、伊豆でクジャクの繁殖戦略や配偶者選択を調査、現在は動物からヒトまで幅広く行動生態を研究している。著書に『生き物をめぐる4つの「なぜ」』『進化生物学への道』『進化とはなんだろうか』『オスとメス 性の不思議』『クジャクの雄はなぜ美しい?』『雄と雌の数をめぐる不思議』『動物の生存戦略』など。


福光 恵(ふくみつ めぐみ)

1960年東京都生まれ。美術業界で働いたのち、フリーライターに。日経新聞プラス1「コトバの鏡」、アスキードットPC「自腹で大人買い」などの連載あり。

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