その2  必ず繁殖し続けていくのが生物です

「子供の数は2人より1人がいいとか、子供を産むのはやめようとか思うことは、ほかの生物ではありえないことだからです。いえ、ほ乳類は、飢餓などの大きな自然災害によって排卵が止まり、本能的なバースコントロールがおこなわれることは知られています。これはヒトでもありますね。でも漠然とした将来の不安から『今年は子供を産むのはやめよう』なんていうことはない。気候が悪くなって、子供が全部死んでしまったとしても、つぎのシーズンが来れば、必ず繁殖し続けていくのが生物なんです」

 というのも、生物は繁殖することで、その存在を存続させてきたからだ。たとえば長谷川さんが例にしたのが「岩」。生命のない岩はじっとしているだけで何千年もそこに存在することができる。一方生物は長くても数十年で命をまっとうし、何もしなければ地球上から存在すらなくなってしまう。

「繁殖すること以外、この世に残る方法がないのです。だから何億年もの間、子供を産むことで、その存在をつなげてきた。そう考えると、繁殖というのは生き物にとってのベースライン。生物は繁殖をおこなうのが普通で、子供をほしくない、配偶さえしたくないというのは、人間だけが考える特殊なことなんですね」

 特殊な行為には、何か特殊な理由があるはずだが、その理由をめぐって、進化生態学者たちは頭を悩ませているという。
「要因はひとつではないが、考えられることがあるとすれば・・・・・・」
 長谷川さんは、こんな要因を紹介してくれた。

「その3  崩れた“ミーアキャットスタイル”の繁殖」へつづく

長谷川眞理子(はせがわ まりこ)

1952年東京生まれ。総合研究大学院大学教授。専門は動物行動学、行動生態学。タンザニアでチンパンジー、伊豆でクジャクの繁殖戦略や配偶者選択を調査、現在は動物からヒトまで幅広く行動生態を研究している。著書に『生き物をめぐる4つの「なぜ」』『進化生物学への道』『進化とはなんだろうか』『オスとメス 性の不思議』『クジャクの雄はなぜ美しい?』『雄と雌の数をめぐる不思議』『動物の生存戦略』など。


福光 恵(ふくみつ めぐみ)

1960年東京都生まれ。美術業界で働いたのち、フリーライターに。日経新聞プラス1「コトバの鏡」、アスキードットPC「自腹で大人買い」などの連載あり。