そもそも草食動物には自然界に大量に食料が用意されているのに対し、肉食動物の食料であるほかの動物は数に限りがある。そのため個体数の上限は、草食動物に比べて少なくなる。また体の大きな動物は、必要な食料も多くなる。個体数の上限は小さな動物に比べて少なくなるという法則もあるという。

 ちなみにヒトは、草食、果実食だった類人猿の系統から分かれ、ヒトになってからは、かなりの肉食になり、今は「雑食」という分類。では生物のなかでも、なぜヒトだけがそんなパターン破りをおかし、それも40倍にまで個体数を膨れ上がらせることができたのだろう。

食料をコントロールする“雑食”動物

「人間はエネルギーを使って、自然界に存在する何倍もの量の食料を作っているからです」 

 食料を自身で大量に生産して、人口まで増やしてしまう動物は、ヒトのほかにはいない。ほかの動物たちは、そこらにある物を食べているだけで、個体数の上限はその食料の量によって決定される。一方人間は、自分で食料を生み出すことで、個体数の上限を自分たちで引き上げてしまった。

「ヒトの“変わった行動”とは、まさにここなんです」

 とくにここ100年は、農耕や生産技術の発達、品種の改良、そして現代のITにいたるまで、人類はその大きな脳を最大限に使って、自分たちの食料を増やしてきた。農薬で、ほかの生物に自分たちが生産した食料を横取りされないようにもした。化学肥料で栄養を与えて、太陽の恵みだけで食料を育てる何倍にも生産力をアップさせた。またこうした食料生産のために、石油などの莫大なエネルギーも使っている。

「その結果が、本来の個体数の上限を40倍も超える人口を生みました。こんな挑戦をしたのは、生物のなかでも、もちろんヒトが初めて。ほかの生物が経験したことのない人口増加だけに、将来は未知数です。ただし、40倍にまで膨れ上がったツケは、必ず何かの形でやってくるでしょう。少なくともエネルギーの枯渇などを考えると、食料の増加はこの先、頭打ちになる。人口だけがこのペースで増えれば、食料不足は免れないと思います」

「その2  必ず繁殖し続けていくのが生物です」へつづく

長谷川眞理子(はせがわ まりこ)

1952年東京生まれ。総合研究大学院大学教授。専門は動物行動学、行動生態学。タンザニアでチンパンジー、伊豆でクジャクの繁殖戦略や配偶者選択を調査、現在は動物からヒトまで幅広く行動生態を研究している。著書に『生き物をめぐる4つの「なぜ」』『進化生物学への道』『進化とはなんだろうか』『オスとメス 性の不思議』『クジャクの雄はなぜ美しい?』『雄と雌の数をめぐる不思議』『動物の生存戦略』など。


福光 恵(ふくみつ めぐみ)

1960年東京都生まれ。美術業界で働いたのち、フリーライターに。日経新聞プラス1「コトバの鏡」、アスキードットPC「自腹で大人買い」などの連載あり。

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