その1  上限を40倍も超えてしまった「ヒト」

「ほかの動物から見たら、きわめて異常な現象だと思います。いえ、人間という生き物が、そこまで変わった行動をするという意味で、ですよね」

 総合研究大学院大学教授で、ヒトを含む動物の行動、生態、進化などを研究する長谷川眞理子さんは、まもなく70億人にも達する「ヒトの個体数」についてそう話す。

 人口が激増する地球。一方で少子化が進み、先進国の先陣を切って、人口減少社会に突入しようとしている日本。こうした現状は、人類学や行動生態学という科学の視点から、どのようにとらえられているのか?
 今年1年にわたって連載されている本誌「70億人の地球」と連動して、日本の人口問題にスポットを当てる本シリーズ。第3回は、人類学者で行動生態学者の長谷川眞理子さんとともに、地球そして日本の人口問題を探っていく。

 ここで再び、長谷川さんの話に耳を傾けてみよう。70億人にまで膨れ上がった人口を「きわめて異常な現象」と長谷川さんが語るのには、いくつかの理由がある。

「そのひとつは、ポピュレーションサイズの上限から、ヒトだけは突出して多く存在していることですね」

 ポピュレーションサイズとは、地球上の生物それぞれの個体数のこと。その生物の体の大きさや、自然界に存在するその生物の食料の総量などから、1平方キロメートルあたりの個体数の上限を算出することができる。生物学の言葉では、キャリングキャパシティ(環境収容数)とも呼ばれる。

「これで言うと、平均体重65kgのヒトの場合は1平方キロ当たり、わずか1.2~1.4人が上限。実際に、ナミビアで暮らすクンという狩猟採集民は、現在も平方キロ当たり1.2人という人口密度をキープしている。ところが世界の平均では1平方キロ当たり44人ものヒトが暮らしています。上限を40倍もオーバーしているんですね。こんな生物、ほかにはいません」