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 植村直己の単独行は、何に由来するのか。彼自身が、それについてはっきり説明したことはない。簡単に自分を解説してみせることは植村はやったことがない。単独行についても、そんなに明快に説明できるものではないと、彼は思っていたであろう。

 他人がいろいろ推測してみることはできる。たとえば、彼の性格をふくめて、その個性に由来する、などとまことしやかにいいたがる人がいるかもしれない。しかし、私自身は、個性に理由を求めるような推測はもっとも怪しげなものに思われてならない。

 そんなふうに、単独行の理由をすぐに探し求めるのではなく、つまり出ない答えを下手に求めるのをやめて、彼の単独行がどんなふうに行なわれたのかをゆっくりと追いかけてみるほうがよいのではないか、と私は考たい。

 1964年4月、明治大学卒業後すぐに、植村はたった4万円(110ドル)を手に、海外に出た。まず、アメリカのカリフォルニアの農場でアルバイト。移民調査官につかまって、国外退去を命じられた。植村はアルバイトで得た金によって、船でフランスに渡る。これが1000日に及ぶ世界放浪の旅の始まりであった。

 この世界放浪をつぶさに語ったのが、『青春を山に賭けて』(文春文庫)である。本のなかで放浪の足どりを追っていくと、どんな登山や冒険行でも、「ひとりが気楽でいい」とつぶやいているような植村に出会う。

 氷河を見たい一心で、ヨーロッパのアルプス(フランス側)を目ざし、山麓にたどりついた。

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