第2章 1888-1900 ゆりかごの時代
第1回 『ナショナル ジオグラフィック』創刊
講演と並行して、1888年10月には『ナショナル ジオグラフィック』がいよいよ創刊されました。
とは言うものの、姿かたちはいまとまったく異なります。

表紙は色気のない赤褐色で、8つ折の縦長の薄い科学パンフレットのよう。発行部数は200部そこそこで、主に協会のミーティングで発表された論文を再録した同人誌のようなものですから、これでもよかったのでしょう。
内容はというと、これが微妙(笑)。
特集は独創的な地質学者兼人類学者、W・J・マッギーの「地理的形態の生成要因による分類」という緻密な学術報告書である一方、米国観測史上もっとも厳しい雪嵐のひとつとして、いまでも語り草になっている3月11~14日の「グレート・ブリザード」を、ニューヨーク沖で命からがら切り抜けた水先案内船第3号の息詰まるストーリーもありました。
学術的な論文があるかと思えば、一般読者をひきつける読みものもある。両極端です。
発行は不定期で、専任の編集者がいるわけでもない。会員が持ち寄った文章を掲載していた同人誌と考えれば、学者から探検家までバラエティ豊かな会員の顔ぶれを見る限り、こうなるのは当然です。しかし、読者にとってみれば困りものでしょう。
学術的な内容にするか、一般読者も楽しめるものにするか。いまの読者には、その後、『ナショナル ジオグラフィック』がどういう方向へ転針し、成功を収めたかはおわかりだと思います。しかしながら、この問題は創刊からしばらくの間、協会にとって実に大きな悩みのタネだったのです。
つづく
(Web編集部S)
「そうだったのか! 『ナショナル ジオグラフィック』」最新記事
バックナンバー一覧へ- 第5章 1956- 第二期黄金時代からさらなる挑戦へ
- 最終回 初の外国語版『ナショナル ジオグラフィック日本版』創刊!
- 第27回 実はボツ写真だった史上もっとも有名な「アフガンの少女」
- 第26回 ナショジオに登場したもうひとりの日本人冒険家
- 第25回 1970~80年代の野生動物の記事“勝手にベスト5”
- 第24回 世紀の大発見「タイタニック号、発見!」のウソ
- 第23回 深海生物の“世紀の発見”です!(動画あり)
- 第22回 植村直己、ナショジオにドーン!
- 第21回 1000万部を超えをもたらしたナショジオ90年目の編集方針
- 第20回 コン・ティキ号と『ナショナル ジオグラフィック』
- 第19回 祝!世界遺産ほぼ決定 ナショジオが伝えた富士山