第3回 写真家ジム・ブランデンバーグ 前編

 だから、この「一日に一枚だけ」というプロジェクトは、写真家をめざし始めたぼくにとって、特別な意味をもっているように見えました。

「遠い昔に自分の生き方を決めた何かを見つけ、自分が願った通りに自然を感じとれるようになったかどうかを確かめたいと思っていた。」

 ジムのこのことばを読んだとき、彼の遠い昔の姿が、今の自分と重なって見えたのです。

 はたしてその成果は……ぼくの期待を遥かに上回るものでした。

 動物や植物から、抽象画のような自然の造形美にいたるまで、ジムのまなざしは自然界のあらゆる対象へと注がれていました。

 雄大な景色を眺めたかと思えば、別の日には、足下の微細な世界を見つめている。見落としてしまいそうな裏庭の、何気ない片隅の風景さえ、刻一刻と変化する光と影、そして色彩の力によって、詩情豊かに表現されていました。

 <毎日毎日をこんなふうに五感を研ぎ澄ませ、自然の不思議さを感じながら生きていけたら、どんなにか、すばらしいことだろう>

 見慣れた風景のなかにいても、感性を磨いてゆけば、そこに新しい世界が見えてくる。そんな可能性を感じさせてくれる写真家に対して、尊敬の念が自然と湧いてきました。

 そして、このジム・ブランデンバーグという写真家に弟子入りしたいと考えるまでに、それほど長い時間はかかりませんでした。

つづく

大竹英洋

大竹英洋(おおたけ ひでひろ)

1975年生まれ。写真家。一橋大学社会学部卒業。1999年に米国のミネソタ州を訪れて以降、北アメリカ大陸北部に広がる湖水地方「ノースウッズ」の森に魅せられ、野生動物や人々の暮らしを撮り続けている。主な著書に『ノースウッズの森で』(「たくさんのふしぎ傑作集」)、『春をさがして カヌーの旅』(「たくさんのふしぎ」2006年4月号)、『もりのどうぶつ』(「こどものとも 0.1.2.」2009年12月号)(以上、すべて福音館書店)などがある。また、2011年3月NHK BSの自然ドキュメンタリー番組「ワイルドライフ カナダ ノースウッズ バイソン群れる原生林を行く」に案内人として出演。近著は「森のおく 湖のほとり ノースウッズを旅して」(月刊 たくさんのふしぎ 2012年 09月号)
本人によるブログは「hidehiro otake photography」