まずは、おおいに暴れまくり、おおいに蹴りまくっていた子馬の名前をニーナという。
 艶の綺麗なダークベイ(黒鹿毛)のメスで、少し神経質そうな顔立ちをしているが、黒いタテガミが綺麗に流れていて、お嬢様のような気品もある。
 人間に例えると、天真爛漫、負けず嫌い、わがままいっぱいという感じで、「じゃじゃ馬」という言葉にぴったりの馬だ。

 一方、蹴られっぱなしになって、お尻をぱっくりと切ってしまった子馬の名前は、シンコー。
 チェストナット(栗毛)のメスで、ニーナよりも遅く生まれたために、体が小さく、その分、親と過ごした日数も少ないので、少しかわいそうな子でもあるのだが、小さい体ながらに、がっしりとした骨太ちゃんといった感じである。
 なんだか鈍感そうな、きょとん目をしていることから、競走馬の子としては少し鈍くさい気もするのだけれど、父親はなんと、日本のG1レース、高松宮杯を制したシンコーキングという馬で、ニュージーランドでは非常に人気の高いスタリオン(種牡馬)だった。
 ボスは、「君と同じ、ジャパニーズだね」などと言って、ニコニコしていて、そう言われると、私もなんだか親近感が湧いてきて、この子馬を「日の丸シンコー」と呼ぶことにした。同じニッポンの血潮を受け継ぐ期待の星なのである。

 というわけで、私は、親と離れたばかりの子馬たちの、新しい育ての親になった。
「これから、二頭と一人、仲良くやっていこう!」
 爽やかな草原の香りを胸いっぱいに吸いこみながら、子馬たちの将来に夢を馳せていると、
 またも、あのじゃじゃ馬ニーナが、ドン! と壁を蹴った。
 それは、まるで、
「冗談じゃないわよ! アンタが新しい母親だなんて、絶対認めないわよ!」と、言うふうに。
 これは、まさか、レジスタンス? 反抗?
「ほ~。そっちがその気なら、私にも考えがあるのだ」
 私はニーナをニッと睨んだ。ニーナもまた、耳を下げて睨み返してくる。
 そして、これから、私たちの闘いが始まるのだった……。




つづく

廣川まさき

廣川まさき(ひろかわ まさき)

ノンフィクションライター。1972年富山県生まれ。2003年、アラスカ・ユーコン川約1500キロを単独カヌーで下り、その旅を記録した著書『ウーマンアローン』で2004年第2回開高健ノンフィクション賞を受賞。近著は『私の名はナルヴァルック』(集英社)。http://web.hirokawamasaki.com/

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