第4話 ニーナとシンコーです。よろしく。
その夜、ボスと私は、子馬たちが脱走を図って、ドアを蹴り壊して怪我をしないようにと、交代で寝ずの番をすることにした。
子馬たちにとっては、はじめての親のいない不安な夜を過ごすことになる。
狭い馬房の中で落ち着くこともできず、眠ることもできなかったようだけれど、激しく暴れることもなく、私は静かに馬房の前で朝日を迎えた。
牧場の朝はいい。緑広がる草原に朝霧がかかって、しっとりとしている。
季節は、秋のはじまり。南半球では季節が反対になるから、日本で冬を終えたばかりの私は、これからまた冬を迎えることになる。
寒い季節が二連チャンだなんて損した気分だなあ、と思っていたものの、地球の反対側の冬を経験するというのは、未知なるものへの好奇心がくすぐられるような楽しみでもあった。
柔らかな朝日が草木にあたり、キラキラと輝き始めた頃、ボスが子馬たちの様子を見にやって来た。
「怪我もなく、一夜を過ごせば、後は大丈夫だ」
そう言って安堵すると、嫌がる子馬たちの頭を撫でては、「触るな~」と怒られている。
そして、私に微笑みかけて、
「今日から君が、この子たちの新しい母親だよ」と言った。
「え?」(どういうこと?)
「子馬たちの子育ては、任せたからね」
ボスは、私の肩をぽんと叩いた。どうやらこれから、私がこの子馬たちの担当ということらしい……。
一瞬私は、戸惑った。
それもそのはず、こんな責任重大な仕事を、そんな簡単に、どこの馬の骨とも分からない日本人の私に任せてもいいのだろうか?