「データロガーを取り付ける時に、検証したい仮説をあらかじめ考えていることは少ないです」と国立極地研究所助教・渡辺佑基さんは述べる。

 普通、科学研究といえば、あらかじめ検証したい仮説があり検証する、というようなイメージを持つし、実際、渡辺さんも論文にする時には、「○○をたしかめるために、データロガーを取り付けた」というふうに説明する。例えば、前に紹介したバイカルアザラシの昼夜の採餌行動の違いを明らかにした論文では、冒頭に「昼と夜の採食行動の違いを知るためにデータロガーを取り付けた」ときっちり述べている。

 しかし、渡辺さんによれば、すでによく研究されている動物を除いて、データロガーをつける時点で、具体的に検証すべき仮説自体立てられないことの方が多いそうだ。なにしろ、これまで人間が観察したことがない領域でデータを取ってくるわけで、そこから何が分かるか、というのは未知数もいいところ。それこそ未踏の地に足を踏み入れた博物学者にとって、その目で見たもの聞いたことが、そのまま科学的発見であることに似ているかもしれない。

 バイオロギングによる研究は、その点で、出たこと勝負、ある意味、運不運に支配される。そもそもロガーが回収できないこともままある(未踏の地からの帰還に失敗というところか)。また、ロガーが回収されても、一見、何を意味しているのか分からないデータの羅列のこともあり、視点を変えて粘り強く分析することが求められる。

 渡辺さんの恩師の一人で、岩手県大槌にある東大大気海洋研・国際沿岸大気海洋研究センター准教授、佐藤克文さんのウェブサイトでは、学生を下記の広告文にて募集している(※)。

 求む男女
 ケータイ圏外 わずかな報酬 極貧 失敗の日々
 絶えざるプレッシャー 就職の保証なし
 ただし成功の暁には知的興奮を得る

 いわずとしれた、南極探検隊のシャクルトン卿が「求む男子。至難の旅。僅かな報酬。極寒。暗黒の長い日々。絶えざる危険。生還の保証無し。成功の暁には名誉と賞賛を得る」との広告で隊員を求めたとされることにひっかけてある。人類にとって、南極大陸が、最後に残された博物学的な未知のフィールドだったとしたら、なんと象徴的なことか。

※岩手県大槌にある東大大気海洋研・国際沿岸大気海洋研究センターは東日本大震災で被災し、現在は復旧の途上にあります。詳しくはこちらをご覧ください。また、佐藤克文さんは 2009年にナショナルジオグラフィック協会のEmerging Explorerに選ばれています。

この連載の前回の
記事を見る

この連載の次の
記事を見る