ふんだんに解剖できるマンボウが手に入り、なおかつ、データロガーも付けられるという環境の中、渡辺さんが発見した事実で、ぼくが驚いたのは2点。

 ひとつは、マンボウの遊泳速度が時速2キロ程度と、サケなどが外洋を泳ぐ時のスピードと変わらないこと。また、100メートルくらいの潜水と浮上をくりかえしていること、など。マンボウというと、いつも海面上にぷかぷか浮いているのんびり屋というイメージだったのだが、意外に活動的らしい。

 そして、もうひとつ、マンボウの泳ぎ方についての発見は、もう衝撃的と言ってよいものだった。

「尾びれのない変な魚です。ロガーのデータを解析した結果、上下につきだした背びれと尻びれを、ペンギンの翼と同じようにして使って泳いでいることが分かりました。つまりペンギンが、90度回転して縦むきに羽ばたいているのを想像してください。生き物の世界でこんな推進の仕方をする動物はいないんじゃないでしょうか」

 いやー、これにはほんとうにびっくりした。

 水族館などでマンボウが不思議な泳ぎ方をするのは知っていた。たしかに、背びれと尻びれを同時に同じ方向に打つ。言われてみて始めて気づいた。これは、ペンギンの泳ぎ方を縦にしただけなのだ。生物界どころか、人工物でもこんな推進法をとるものはないのではないだろうか。

 さらに渡辺さんは、解剖できる個体に不自由しないことから、各成長段階で背びれと尻びれの大きさが同じであること、また、それらを動かす筋肉が、付き方こそ違うものの等量であることも示した。

 まさに、マンボウは、水の中を「縦になって」飛んでいたのだ。

 バイオロギングによる、生き物の動きの詳細なデータと、解剖学的な知見を組みあわせると、かくも興味深い結論が導かれる。先に紹介した「おぼれるカラチョウザメ」もまさにそういう事例だった。

つづく

渡辺佑基(わたなべ ゆうき)

1978年、岐阜県生まれ。国立極地研究所生物圏研究グループ助教。世界の極地を飛び回り、データロガーを駆使して主に極域に生息する大型捕食動物の生理生態および種間比較を研究している。2011年、「動物の泳ぐ速さを決めるサイズ効果を発見」(J. Anim. Ecol. 80, 57-68 (2011))が『Nature』の「News&Views」に紹介された。


川端裕人(かわばた ひろと)

1964年、兵庫生まれ。作家。98年、小説『夏のロケット』で第15回サントリーミステリー大賞を受賞。少年たちの川をめぐる物語『川の名前』、自身の体験を元にした『PTA再活用論 ──悩ましき現実を超えて』、感染症制圧の10日間を描いた小説『エピデミック』(角川文庫)など、多岐のジャンルにわたり多数の著書がある。近著は『イルカと泳ぎ、イルカを食べる 』(ちくま文庫)。
著者自身によるブログは「リヴァイアさん、日々のわざ」。ツイッターのアカウントは@Rsider

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