ありとあらゆる種類の動物でも、ロガーを付けられるチャンスがあるなら付ける、というのが渡辺さんのポリシーだが、かといって、ありとあらゆる動物の知識が頭に入っているわけではない。

 とにかくヨウスコウカワイルカ(今世紀に入って絶滅したと考えられている)と並んで、中国では環境保護のシンボルとして扱われる魚だ。最大で5メートルにも成長し、もちろん希少。長江にできたダムのせいで産卵場所が限られ数が減っている。バイオロギングによる生態・行動研究は、保護のためにも欠かせない。データの解析のためには、チョウザメのことを知らなければならない。

「たまたまその時に所属していた研究所(東大大気海洋研・国際沿岸大気海洋研究センター)の近くにチョウザメの養殖センターがあったので、買ってきて解剖したら、おもしろいことに気づきました。魚の浮き袋は、人間の肺とは違って消化管から独立しているものが多いんですが、チョウザメの場合、肺のように消化管と直接つながっているんです──」

 古いタイプの魚では、消化管と浮き袋がつながっている場合がある、と魚類生理学の本には書いてあるそうだ。そして、チョウザメはまさにそれにあてはまった。海の哺乳類と同じように水面に出て、浮き袋の空気を補給しなければならない。

 その点に着目すると、一気に解析が進んだ。

「チョウザメは、深く潜ると溺れる」と渡辺さんは表現した。

 もちろんエラ呼吸できるので、文字通り溺れて死んでしまうわけではない。ただ、消化管につながった浮き袋は深いところにいくと潰れてしまい浮力を失う。現代的な魚類なら、ガス腺を通じて血液中のガスを浮き袋の中に供給し膨らんだままに維持できるが、チョウザメはそれができない。

 結果、水深によって、まったく浮力が変わり、それに伴い行動も違ってくる。浅い水深ではほぼ中性浮力になるようで、しきりと尾を動かしては積極的な採食行動を取る。100メートルを超える川底に潜った個体は、まるでカレイのような底魚に似て、あまり動かず、「待ち」の採食行動をとっているようだ。

 もっとも「溺れた」状態での行動は、本来のものではないかもしれない。ダムの別の場所で調査をすると、100メートルを超える深いところには潜っていかない。ダムによってできた不自然な深さ自体が、カラチョウザメに悪影響を与えているのかもしれない。ひとたび深く潜って浮力を失うと、泳力との関係から水面に戻ってこられない可能性もあると渡辺さんは考えている。その場合、カラチョウザメが「溺れている」という表現はまさにリアリティのあるものになる。

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