第1回 ペンギンカメラの衝撃

 日本のメーカーと研究者が協働して、デジタル式のデータロガーを開発したのは1991年のことだ。以来、ロガーの小型化、観測できるデータの種類の多様化と多機能化(ひとつのロガーで複数の種類のデータを記録できる)、そして記録容量の増強、3つの方面での進歩がとどまることを知らない。データが大きくなりがちな動画を記録する小型ビデオロガーが最近になって実現したのは、記憶容量の増強が追いついてきたからだ。

 人間がどうやっても追従できない水中の動物の行動を知るために、もはやバイオロギングの手法は欠かせないものになっている。ましてや、ビデオ撮影まで簡単になると、素人目にも楽しく、大人気の研究分野になっていくのではないかとぼくは予想する。

 もっとも、草創期から今に至るまで、非常に悩ましい弱点がある。
 データロガーは、装着した後、どこかで回収して、蓄積されたデータを手に入れないと役に立たない。営巣中のペンギンは、毎日海に出て餌をとり、巣に戻ってくるので、ロガーの装着・回収がしやすくて理想的だ。

 しかし、たいていの動物は、捕獲してロガーを付けたとしても、またたくまにどこかに泳ぎ去り、それっきりになってしまう。
 バイオテレメトリーといって、電波を使ってデータを発信し、随時入手する方法はある。しかし、受信設備などの関係で調査が大がかりになりすぎるきらいがある。営巣中のペンギンのような都合の良い動物以外でも、データロガーをうまく回収する方法はないものか。

 ペンギンの水中画像をものにした渡辺さんは、2002年、大学院生としてバイオロギングの世界に参入した若手だ。目下、他人から見るとめまいを覚えるようなスケジュールで世界中を飛び回り、動物にロガーを付けて回っている。ぼくが研究室を訪ねた日も、南極から帰ってきて、今度はノルウェーに飛びホッキョクグマにロガーを取り付けて、帰国した翌々日だった。

 ある意味で、バイオロギング界の「売れっ子」であるわけだが、そのきっかけはというと、渡辺さん自身が、最初の研究で開発したロガーの回収方法とノウハウによるところが大きいと見た。信頼できる日本製のロガーを持ち、しっかり回収できる能力を持った者を共同研究者として招きたいと、海外の研究者が思うのはごく自然なことのようなのだ。

つづく

渡辺佑基(わたなべ ゆうき)

1978年、岐阜県生まれ。国立極地研究所生物圏研究グループ助教。世界の極地を飛び回り、データロガーを駆使して主に極域に生息する大型捕食動物の生理生態および種間比較を研究している。2011年、「動物の泳ぐ速さを決めるサイズ効果を発見」(J. Anim. Ecol. 80, 57-68 (2011))が『Nature』の「News&Views」に紹介された。


川端裕人(かわばた ひろと)

1964年、兵庫生まれ。作家。98年、小説『夏のロケット』で第15回サントリーミステリー大賞を受賞。少年たちの川をめぐる物語『川の名前』、自身の体験を元にした『PTA再活用論 ──悩ましき現実を超えて』、感染症制圧の10日間を描いた小説『エピデミック』(角川文庫)など、多岐のジャンルにわたり多数の著書がある。近著は『イルカと泳ぎ、イルカを食べる 』(ちくま文庫)。
著者自身によるブログは「リヴァイアさん、日々のわざ」。ツイッターのアカウントは@Rsider