第1話 実録!有人潜水艇による深海熱水調査の真実
その2 マリンスノーってきれいなんですか?
前回まで:2009年10月の朝、インド洋上。海況不良のため、予定していた「しんかい6500」の潜航はなかなか決まらなかった。深海調査におもむきたい研究者・高井研は、キャプテン・リョーノさんと司令サクライさんの判断を待っていたが……。
というわけで、海況が良くないとき、キャプテンも司令も、そう簡単には「潜航OK」なんて言ってくれない。
しかしボクら研究者も、もちろん最終決断には従うが、スゴスゴと最終決断が下されるのを指をくわえて待ってはいないのだ(ガッツのある研究者達の例なので、決してマネしないように)
とりあえず、船尾で海を見つめながら、ボソボソ話し込むリョーノさんとサクライさんを、10人近くの研究者が一列になって、ジッと凝視する。そして心で、「モグラセロ、モグラセロ、モグラセロ、モグラセロ」と念じながら電波を送る。
何か背筋に悪寒を感じたのか、リョーノさんとサクライさんがこちらを振り向く。研究者、いっせいにさらに険しい顔で念を送る。
あっ。二人がこっち来る。とうとう決断したようだ。
「2時間ぐらいしか潜れないかもしれませんが、いいですか? しかもこれよりちょっとでも海況が悪化したら、いかなる状況でも浮上してもらいますけどいいですか?」
「よっしゃー」。たとえ2時間といえども、潜れないよりは潜れるほうがいいにきまってる。なんてたって今日は、航海最後の日なのだ。中止になればそれでおしまい。「あきらめたらそこで試合終了ですよ」。スラムダンク安西先生の名言。
潜航開始が決まった。「行くぜ、ヤナギタニさん、イイジマさん!」。ボクらはいそいそと準備し、しんかい6500コックピットへと急いだ。「よこすか」の司厨から、お弁当も届いた。「タカイさんのご要望の和風お弁当セットではなく、通常のサンドイッチで申し訳ないですけど」。おっと、そうだった。図々しくもボクは、「たまにはパンじゃなくてお米がいいニャー♥ 」などと司厨長さんにお願いしていたのだったっけ。厚かましい男よのぉー。でも、昔は「カツ丼」までリクエストした強者もいたのだ。もっといえば、フランスのノチールという有人潜水艇では、潜航調査にはフランス料理のコース料理が持ち込まれ、当然ワインが添えてあると聞いている。なんとまあ、フランス的なんだ。
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