第2回 ノースウッズとの出会い

 じつは、その当時、ぼくは写真家になることを決心して、最初の撮影テーマについて考えているところでした。

 野生の残された、大きな自然を相手にしたい。でも、具体的に、どこで何を撮影するのか、すべては白紙の状態でした。

 アラスカのクジラ、アフリカのゴリラ、南極のペンギン……撮ってみたいテーマはいろいろありました。どれも仕事としてまとめるには長い時間がかかります。人生の全てをかけることになるかもしれない。だからこそ、その選択には、「自分にしかできない」と思える決定的な理由が必要でした。

 しかし、いくら頭の中で考えてみても、答えは見つかりません。理屈を並べただけではどうにもしっくりこないのです。いたずらに時間だけが過ぎてゆきました。

 そんなときに見たのが、この夢だったのです。それまでにオオカミのことを、被写体として真剣に考えたことはありません。それだけに、余計にふしぎでした。なぜ、オオカミが夢に出てきたのだろうかと。

 断っておきたいのは、ぼくは事実を伝えたいだけであって、夢のふしぎな力とか、そんな話をしたいわけではありません。ふだんから自分が見る夢に興味をもっていたわけでもなく、初夢だって、生まれてから一度も覚えていません。でも、その夜は違いました。夢に現れたオオカミはあまりにリアルだったし、その夢を見たタイミングが、ぼくにとっては大きな意味を持っていたのです。

 次の日、オオカミのことをもっと知りたいと思い、世田谷区の中央図書館に足を運びました。地下の一画に、動物に関するコーナーがあります。着くとすぐに、オオカミの写真集『ブラザー・ウルフ』が目にとまりました。撮影したのはジム・ブランデンバーグ。ナショナル ジオグラフィックを中心に、世界的に活躍する写真家です。以前からその名前は知っていましたが、きちんと作品集を開いたのは初めてでした。

 独特のインクの匂いがする、大型の写真集でした。ページを繰ってみて、ぼくはその写真群に圧倒されました。