北極点・グリーンランド縦断犬橇単独行達成記者会見にて
(写真提供:文藝春秋 (c) Bungeishunju)

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 南極大陸単独横断の目標からすると、彼は大きく迂回することになった。74年、北極圏1万2000キロの単独犬橇行。78年、北極点犬橇単独行、ひきつづいて、グリーンランドを単独縦断。世界を驚嘆させた冒険の達成である。

 この二つの冒険は、当初予想もしなかったまわり道である。まわり道とはいいながら、それじたいが20世紀の冒険として歴史に残るほどの輝かしい達成だった。

 この二つの冒険は、植村が自分でももてあますほどの、巨大なエネルギーに衝き動かされた結果といえなくもない。

 二つの冒険にはそれぞれに理由があった。南極横断という夢の実現のステップとして、それが必要であり、きっと役に立つという理由である。しかし、そういう理由以前に、植村の目の前に北極圏の広大な氷の世界が広がり、それを見た以上、走破したくてたまらなくなったのだった。巨大なエネルギーに衝き動かされるというのは、そういうことである。

 自分のなかにある、マグマのようなエネルギー。その捌け口を追及していくと、単独の冒険を試みるしかなくなる。

 彼は人前ではいつもニコニコと笑顔を絶やさない、礼儀正しい「いい奴」だった。しかしたんに「いい奴」だけでは、このマグマのようなエネルギーの噴出は説明がつかない。そういうエネルギーをもってしまった男には、大きな屈折や苦悩があった。彼がもし表面に見る通りの「いい奴」だったとしたら、あれだけ単独行に固執する必要はなかっただろう。

 植村直己という常軌を逸したエネルギーの持ち主には、光の部分もあれば影の部分もあった。この「植村直己 夢の軌跡」ではできるだけさまざまな角度からそれを追ってみたい。いずれにしても、彼の身体のうちからわきあがってくるものによって、彼の夢と冒険は予想外の大きな軌跡を描いたのである。

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