第1章 始まりと終わり 後編

(承前)
 目の前にある地図は、ただ白い広がりのように見えた。なるほど、南極という氷の世界にふさわしい白さだなあと、私は奇妙なことに感心した。

 そして、南極横断ということがどんなことなのか、イメージがわかないまま、ポツリポツリと質問した。誰も横断したことはないのか。スノーモービルでも使うのか。だいたいどこにどうやって上陸するのか。起点と終点をどこにするのか、等々。

 植村は勢いこんで答えた。

 南極を単独で横断する。距離にして3000キロ、単独ではまだ誰もやったことがない。走行の手段は犬橇を考えている。

 そこらへんまでは決然たる口調だった。しかし、その他の点では漠然としていて、かつかなりあいまいだった。起点としては、アメリカとかアルゼンチンが設置している軍事基地を借りる。その一方が起点となれば、一方が終点となる。どっちにしろ、両国の軍隊の協力が必須条件になる。しかし、それはともかく、犬橇で横断することができれば、世界の注目を集める快挙になるはずだ。

 そうだとしても、しかしあなたは犬橇の操縦ができるのか? と私は不思議な話を聞くという気分で訊ねる。彼は答える。

 犬橇の操縦は、これからグリーンランド(あのデンマーク領の、極地の島!)に入って、エスキモーについて習う。それを習得した後、エスキモー犬と橇を南極に運び込み、食糧を確保して、行動を開始する。とはいっても、犬と自分の食糧全部を積んでいくことはとてもできないだろうから、アメリカかアルゼンチンの空軍に適宜投下によって補給してもらうしかない。

 全体が茫漠とした話で、そのわりに部分的には奇妙に細部が具体的だった。

 植村はこの話をした時点で、まだ南極大陸へ行ったことすらなかったのである。グリーンランドのほうは、3年前の夏、フランスから南米に渡る前にちょっとだけ足を踏み入れた経験があるが、犬橇については、ぼんやりした知識があるだけだった。