第1章 1888-1890 ナショナル ジオグラフィック協会誕生

第2回 地理知識の向上と普及をめざして

 ナショナル ジオグラフィック協会が誕生したのは1888年1月13日の金曜日のこと。米国の首都ワシントンで、霧の濃い寒い夜のことでした。

 場所はホワイトハウスのななめ向かいにあったコスモス・クラブです。このプライベートな会員制のクラブは、当時から一流の科学者や作家、芸術家などの集まる有名なサロンでした。

「拝啓 このたび、地理学の知識と向上をめざす組織の設立につきまして、1月13日金曜日、夜8時からコスモス・クラブの集会所で会合を執り行いますので、ぜひともご参加ください。敬具」 コスモス・クラブで開かれた会合への招待状です。3日前の1月10日付けにもかかわらず、33人ものメンバーが参加したことが関心の高さを物語っています
© Robert S. Oakes

 集合時間の夜8時が近づくにつれて、自家用の馬車や徒歩などで続々と姿を現したのは、地理学者や地質学者をはじめ、探検家、軍人、弁護士、銀行家など33人の紳士たち。グランドキャニオンやイエローストーンを最初に探検したり、北極圏に星条旗を運んだり、有名な山や川を探検・測量したりした、そうそうたるメンバーです。

 彼らが集まったのは「地理知識の向上と普及をめざす」組織の設立を協議するため。そう、この組織こそがナショナル ジオグラフィック協会になるわけです。

 1888年頃というと、どんな時代だったのでしょう。

 アメリカでは、トマス・エジソンが映画の原型となるキネトスコープを発明し、ジョージ・イーストマンはコダックの箱型カメラと白黒のロールフィルムを完成させていました。

 イギリスでは切り裂きジャックが新聞をにぎわし、フランスではゴッホが左耳を切断します(ゴーギャンが切ったという異論もありますが)。