毎年のように同じ場所に帰ってくるぼくに対して、現地の人たちは「ロッキーやイエローストーン、グランドキャニオンも見たほうがいいよ」と言いつづけてきました。それでも迷うことなく、いつも決まってノースウッズに足を運びました。

 でもそれは、決してここが野生動物の撮影をするのに理想的な場所だからではありません。むしろ逆で、ここは世界でも、取材が最も困難なところのひとつだと思います。湿地が多く、車でアクセスできるところも限られる。地形は平坦で、樹が茂り見通しが非常に悪い。動植物の多様性も熱帯と比べるとはるかにシンプル。あまりに広大で、大型の野生動物と出会うことは非常にまれ……。短い取材期間では成果が得られないから、メディアが取り上げたくても取り上げられなかったというのが実際のところかもしれません。

 それでもなぜ、ぼくはずっとこの場所に通いつづけてきたのか。

 これまでその理由をきちんと言葉にしたことはありません。ただひとつはっきりと言えるのは、豊かな自然があるというだけでは、ここまで思い入れをもつことはできなかっただろうということです。そのような場所は世界中にたくさんあります。しかし、ノースウッズが特別だったのは、旅する中で、自分の人生と深く関わってくるような、忘れられない人との出会いがたくさんあったのです。

 たとえば、ジム・ブランデンバーグ。『ナショナル ジオグラフィック』の表紙を幾度も飾り、オオカミの写真家としても世界的に知られる自然写真家です。そして、極地探検家のウィル・スティーガー。1990年、世界で初めて犬ぞりによる南極横断という偉業を成し遂げ、探検の歴史にその名を刻みました。ノースウッズへの最初の旅で、この二人と出会えたことはその先の可能性を大きくひろげてくれました。さらに通いつづけるうちに、多くの友人が出来ました。森のほとりに暮らし、森を愛し、その恵みに感謝して生きる人々。彼らのノースウッズに対する眼差しを通して、ぼくもこの森への愛情を深めることができました。撮影の難しさにもめげることなく、また行きたいと思いつづけることが出来たのは、間違いなく、そんな友人たちにまた会いたいと思えたからです。

 この連載では、これまでのノースウッズでの人々や野生動物との出会い、そして、写真家を目指した時のことなど、思いつくままに、綴りたいと思っています。ときには現地からのレポートも織り交ぜながら、ノースウッズの魅力をみなさんにお伝えしたいと思います。書いていく中で、ぼく自身、なぜずっとこの場所に通いつづけているのか、その答えを見つけられればと思っています。

つづく

大竹英洋

大竹英洋(おおたけ ひでひろ)

1975年生まれ。写真家。一橋大学社会学部卒業。1999年に米国のミネソタ州を訪れて以降、北アメリカ大陸北部に広がる湖水地方「ノースウッズ」の森に魅せられ、野生動物や人々の暮らしを撮り続けている。主な著書に『ノースウッズの森で』(「たくさんのふしぎ傑作集」)、『春をさがして カヌーの旅』(「たくさんのふしぎ」2006年4月号)、『もりのどうぶつ』(「こどものとも 0.1.2.」2009年12月号)(以上、すべて福音館書店)などがある。また、2011年3月NHK BSの自然ドキュメンタリー番組「ワイルドライフ カナダ ノースウッズ バイソン群れる原生林を行く」に案内人として出演。近著は「森のおく 湖のほとり ノースウッズを旅して」(月刊 たくさんのふしぎ 2012年 09月号)
本人によるブログは「hidehiro otake photography」

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