カメラマンというものは、撮影の依頼があれば世界中どこへでも行きます。しかしその一方で、ぼくにはライフワークとして通いつづけている地域があります。それが「ノースウッズ」です。

 ノースウッズと聞いてどんな場所なのかイメージできるとしたら、以前にぼくの写真を見たことのある人か、相当熱心な『ナショナル ジオグラフィック』の読者だけにちがいありません。これまでノースウッズという名称でその地域を伝えてきた日本のメディアはほとんど存在しないのですから。

 ノースウッズとは、ひとことで言えば北アメリカ大陸の北部に広がる湖水地方です。

 湖水地方というだけあって、数えきれないほど多くの湖が存在します。湖のまわりは北国特有の針葉樹やシラカバの混じった北方林。森の様子だけをみればシベリアのタイガとよく似ています。その北米版とでも言ったらいいでしょうか。冬の寒さが厳しく、マイナス30度はあたりまえ。一年の半分は雪と氷に閉ざされ、ときにはマイナス50度ともなる厳寒の土地です。それでもこの土地には、いまも広大な自然が残され、多くの野生動物たちが暮らしています。

 ノースウッズの南端にあたる、アメリカのミネソタ州北部にはじめて足をふみ入れたのが1999年のことですから、通いつづけて今年で12年目に入ろうとしています。

 じつは「ノースウッズ」というのは地図の上に載っている地名ではありません。ぼく自身、ミネソタを訪れるまで、その言葉を知りませんでした。しかし、通っているうちに、カフェの名前や、みやげ物のキーホルダーやジャムのラベルなどにノースウッズという言葉が使われているのを何度も目にしました。どうやら地元の人はノースウッズという言葉を聞くだけで、ロマンに満ちたある光景をイメージするようなのです。

 するどく天に伸びる針葉樹の森だったり、朝もやの立ちこめる湖だったり、その畔に立つ丸太小屋だったり。森の中にはいまもオオカミやクマが歩き回り、空にはハクトウワシが悠然と舞っている……。そんな野生の残された世界です。

「ノースウッズ」という言葉は、たとえば日本の「雪国」という言葉のように、地図には載っていないけれど、想像力を刺激して、さまざまな光景をイメージさせてくれる不思議な力をもった言葉に聞こえました。その響きがいつまでも心に残り、はじめて出版した写真絵本のタイトルにも「ノースウッズ」という言葉を使いました。まだ日本にほとんど紹介されていないこの森と湖の世界を、自分のライフワークとして取り組んでいこうと心に決めたからでした。

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