なお、脊髄後角から脳に至るシグナルの伝達については、痛みを伝えるだけでなく、その抑制につながる仕組みも備わっている(「ゲートコントロール理論」や「下降性疼痛抑制システム」など)。大きな交通事故にあった人たちが、「その瞬間は痛くなかったが、あとになって痛みがひどくなった」というような体験を語るのをよく聞くけれど、生死に関係するような強烈な衝撃が加わったときに痛みを感じないというのは本当に不思議なことだ。しかし、痛み刺激の伝達は、脊髄でも脳でもかなり大きなコントロールを受けており、刺激の量と痛みの感覚・情動が単純に比例するわけではない。本当に奥深い。

 それでは、実際に今、痛みを感じるとして、それにはどんな「種類」があるだろうか。

「今は、疼痛について、『侵害受容性疼痛』だとか『神経障害性疼痛』といったふうに分類することが多いです。これ自体、いろいろ齟齬(そご)はあるし、まだ喧々囂々(けんけんごうごう)としているような問題がたくさんあるんですけど、まず定義をつくらないと薬の開発もできないですしね。でも、その中でも、さきほど述べた、感覚・情動体験っていうのは一番の重要なところです」

「侵害受容性疼痛」と「神経障害性疼痛」というのは、字面はとてもいかめしい。

 ただ、概念としてはそれほど難解なものではないと思う。

 まず、「侵害受容性疼痛」というのは、切り傷や火傷、骨折といったもので、神経の末梢にある痛みセンサーともいえる「侵害受容器」が刺激されたときに起こるものだ。外からの刺激とその応答としての痛みという捉え方ができるので、その意味で単純だ。急性の痛みはこれが多く、慢性疾患でも関節リウマチや五十肩など患部の炎症や変形などで刺激が続く場合はこの要素が強い。

 一方で、「神経障害性疼痛」とは、傷や炎症がないにもかかわらず、なんらかの原因で神経そのものが障害されて、痛みにつながるものだ。具体的には、帯状疱疹(たいじょうほうしん)が治った後に残る痛み、糖尿病の合併症の痛み、坐骨(ざこつ)神経痛、などなど。神経そのものがダメージを受けている場合もあるというのだが、まだまだ謎の部分も大きい。

 もちろん、これらは、すっぱり分かれているわけではなく、両方の要素が混ざっている場合もあるし、どちらにも当てはまらないものもある。例えば脳卒中の後に起きる痛みは、末梢の受容器が刺激されたり、神経が障害されるよりも前に、脳にダメージがあるわけで、この2つのカテゴリーには当てはめにくい(そして、治療がとてもむずかしい)事例だ。

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