そんな訳の分からなさを感じていたところ、日本の疼痛(とうつう)医療の拠点の一つとされている愛知医科大学・学際的痛みセンターの牛田享宏教授と話す機会を得た。牛田教授は、大学病院で臨床の現場を持ちつつ、研究者でもある。2018年にできたばかりの『慢性疼痛治療ガイドライン』では、厚生労働省の作成ワーキンググループの研究代表者をつとめた人物だ。

 名古屋駅から地下鉄東山線に乗って藤が丘駅へ。そして、バスで15分ほどの距離に、愛知医科大学病院はある。診療科や病室が入っている中央棟をつっきった先の建物には、「体育館・運動療育センター」という名前が掲げてあった。市民も利用できる体育館やスイミングプールがある建物で、さらにその奥にある居室にてお話を伺った。

愛知医科大学体育館・運動療育センター。学際的痛みセンターもこの中にある。
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「どうぞ、どうぞ」と招き入れてくれた牛田さんは、白衣姿で、にこにこ愛想よく、人あしらいのうまい町のお医者さん、というふうな雰囲気だった。

日本の慢性疼痛医療をけん引する医師の1人、愛知医科大学の牛田享宏教授。
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 まずは、今、慢性の痛み、つまり慢性疼痛がどんなふうに問題になっているのか聞いた。治療ガイドラインができるなど、注目が集まっているのは間違いなく、その背景にはどんなことがあるのだろうか、と。

「まあ、人口の20パーセント、2000万人以上という数字は、よくある運動器、つまり、腰や肩、膝など全般的な痛みなどに加えて、頭痛まですべて入ったものです。これが運動器に限れば16パーセントくらい、その中で、厄介な難治性の慢性疼痛は、人口の1パーセントから数パーセントくらいまでだろうと思っています。僕たちのところには、数パーセントの、なかなか治らない患者さんたちが来ています」

 頭痛にせよ、腰や肩や膝の痛みにしても、「痛い」と思った人たちは、それぞれの診療科を訪ねて、そこで診察され、治療を受けるのが通常の流れだ。それで改善するならよいのだが、中には治らないどころか、日常生活に困るようなレベルの痛みを抱えるようになる人も多く、そういった場合、「痛み」の専門医の出番だ。今では「ペインクリニック」を看板に掲げる医療機関も増えており、まずはそういったところを訪ねることになるだろうが、牛田さんの「学際的痛みセンター」は、さらに難治性の慢性疼痛患者を多く診てきた。つまり、「こじらせた慢性の痛み」の専門家である。

1) 矢吹 省司: “1章 慢性痛って何? 03 わが国における慢性痛の実態は?” jmed mook 33 あなたも名医!患者さんを苦しめる慢性痛にアタック! 慢性の痛みとの上手な付き合い方 小川 節郎 編 1 日本医事新報社: 11, 2014 [L20150226003]2) 矢吹 省司 ほか: 臨整外 47(2): 127, 2012 [L201502260002]より (画像提供:牛田享宏)
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「これまで、がんや、感染症、精神疾患、生活習慣病、様々な難病について、政府は対策をしてきました。でも、慢性疼痛についての施策は抜け落ちていたんです。難治性の慢性疼痛の人たちって、すごく医療費を使うのに、なかなかよくならないんですよ。薬の効きも悪くて、いろんな医療機関を渡り歩きますし。じゃあどうすればいいのかと、2010年に、対策を立てるために有識者会議を開いて、まずは国内の状況を把握して、外国の視察をしたりして、今では全国で23カ所に『痛みセンター』ができました。整形外科や麻酔科などの生粋の専門医が2人以上、精神心理の専門医が1人以上、専門看護師や理学療法士などのコメディカルもいて、チームで治療方針のカンファレンスをしているようなところっていう定義づけで、進めています」

 先に触れた「治療ガイドライン」が策定されたのもそのような背景があってのことだった。

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