「恨みや不公平感を持っている人の方が痛みが出やすいというのは、研究でも示されています。実際、僕らの臨床体験でも、交通事故や事件の被害者でも、恨んだり怒ったりしている人の方がすごく苦しむことが多いですし、CRPSの人の中にも、例えば、手術を失敗されたって恨んでいる人がいます。まあ、100点満点の手術はないですし、僕は失敗されてないと思うんですけど、患者さん自身が失敗されたと思い込んだら、それでもうおかしくなってしまう場合もあるんです」

 慢性疼痛をめぐって、社会的・心理的な側面を見てきた今、それを聞くと、たしかにそういった強力なパワーを持った感情が影響をしてくるというのは納得できる。なにより、恨み、怒る気持ちは、今ある痛みを常に再確認することにもつながり、痛みにとらわれ、疼痛行動を強化することにつながっていく、ということなのだろうか。

「今、言った患者さんは、もとはといえば、腰椎の椎間板ヘルニアだったんです。ある病院で、手術をすればすぐにゴルフでもなんでもできるようになると言われて手術を受けて、それでも痛みとしびれが残ったので再手術してもよくならなかったと。それで、別の病院で『症状が残存しているのは手術で神経に傷が付いているからだろう』と説明を受けたっていうんですよ。それでもうこれは治らないんだと悲観して、うつも発症して、どうしてもよくならなくて、僕たちのところに来ました。痛みの『破局的思考』に至ったケースなんです」

 痛みにとらわれ、すべてがそれを中心にまわってしまう。不安や恐怖、それにともなって、うつや不眠に至り、「使わないことによる痛み」や、様々な機能障害、依存などにはまっていく。どこかで悪循環を断ち切らないと本当につらい。

 なお、「使わないと萎縮する」効果から、生活に支障をきたすレベルの慢性疼痛に落ち込む悪循環は、人間の患者さんの観察だけでなく、ラットの実験などでも示されている。これは、牛田さん自身の研究だ。

「例えば、骨折してギプスしてからCRPSみたいな重たい慢性疼痛になっていく人がいるんですが、それを僕は、最初、骨折したからそうなるんだと思っていたんです。ところが、骨折していないラットにただギプスをする実験をしたら、30日くらいたつと、それだけで同じように痛がる動物ができてしまいました。手とか足を固定しておくんですが、やがてアロディニアのような症状が出てきて、尻尾に少し触っただけでも、ビビッってすごい反応をしたりするようになるんです」

 また、最近では、人間に対する「実験」も試みられており、アメリカのグループが、健常者にギプスを巻いて過ごしてもらうと感覚が変わる(さすがにCRPSになる前に切り上げる)という報告をしているそうだ。

なんと、ラットの手や足を「ただ固定しておくだけ」でアロディニアのような症状が出たという。
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