第4回 遺伝子検査で医療はどこまで進歩するのか

「皆さんが、健康診断や人間ドックで血液検査を受けると、正常範囲っていくつからいくつまでで、あなたはこの項目が高いとか、そういうデータが出てきますよね。今、設定されている正常範囲ってそれ自体、数倍の幅があるものが多くて、つまり個人個人のばらつきもすごく大きいんですよね。そのばらつきの理由として遺伝子の影響が強い項目があれば、その遺伝子情報をもとに、個別の正常範囲を設定できるのではないかと思うんです。そこで、今よく行われている代表的な血液検査の項目について、その値に影響を与える遺伝子を調べたところ、1400くらい見つかりました。例えば肝臓や胆のうなどの病気の指標にされるアルカリホスファターゼ(ALP)は、正常範囲の個人差がとても大きくて、今言われている正常範囲は、例えば100~325単位ですとか幅広く設定されているんです。でも、これは例えば血液型の違いですごく値が変わるのが分かって、O型だと他の血液型より平均すると30ぐらい高いんです。他の血液型だと、肝障害を疑われて腹部エコーを受けましょうという検査値でも、O型にとっては正常値ということがありえるんです」

肝臓や胆のうなどの病気の指標とされるALP値と関連する遺伝子を調べたところ、血液型を決定するABO遺伝子が最も強い関連を示し、A型、AB型に比べ、特にO型では30以上値が高くなることが分った。つまりO型では、特に病気がなくても異常値となる可能性が高くなると想定される。”P”は結果が統計上、有意かどうか判断する指標のひとつで、小さいほど有意と判断される。(画像提供:松田浩一)
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 腹部エコーなら身体的には楽だが、時間はとられるし経済的な負担もそれなりにある。ましてや、組織を採取する生検や放射線を使う検査など、体の負担が大きかったり検査自体がリスクになりうるものは、本当に必要な場合以外は避けたい。だから、遺伝子情報によって検査値の正常範囲を個別に調整できるなら、精密医療時代のまさに「精密検査」として歓迎されるだろう。これは、個人としてもありがたいことだし、医療費の抑制という意味で社会的貢献も大きいはずだ。

精密医療のおかげで、健康診断までより精密になるのは朗報だ。
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「あと、検査ということで、もうひとつ別のトピックですが、リキッドバイオプシー(血液などの体液を使った生検)というものが今、実用化されつつあります。これまで、がん細胞を見るといえば、結局組織を取ってこないと駄目でした。数ミリ角の組織とはいえ、やはり体を切らないといけないので侵襲的ですし、かといって、数ミリ角だけで全体を反映しているとは言いにくいです。さらに、がんが転移している場合は、一箇所だけみていても駄目です。そういうのをずっとひっくるめて見る方法として、腫瘍組織から漏れ出て血液の中に浮いている遊離DNAを調べるんですね。血液だけを見ればよいので患者さんのモニタリングとしてもよいですし、治療薬の決定という意味でも、この遺伝子異常ならこの薬を使いますと決められるので、より負担が少ない方向に今後シフトしていくはずです」

 今も話題に出たけれど、個々人の遺伝子のタイプに合った治療薬というのはとても注目される分野で、近年、しょっちゅうニュースになっている。

 特にがんのような腫瘍をターゲットにした薬は日進月歩という印象だ。これは叩くべきがん細胞のタイプに応じた薬を選択するというもので、今の精密医療、オーダーメイド医療の本丸だと思われているかもしれない。

 とはいえ、治療薬の使い分けというのは、がんだけの問題ではない。もっと、幅広く、様々な分野で使われることが想定されている。比較的、地味な話題なので、一般ニュースにはなりにくいが、着実に進展があるそうだ。