松田さんのグループによる研究の一部を紹介した。それぞれ、遺伝的な背景とがんなどの病気との関連について知的に興味がつきないし、切実に感じられる部分も多い。とはいえ、まだまだ、こういった探求は始まったばかりで、松田さんたちの成果が「決定版」というわけではないことは理解しておいたほうがいいだろう。むしろ、こういった研究は「幕開け」を告げるものだ。リスクが何倍とか言われるとドキッとさせられるけれど、かといって悲観する話でもない。分かったからといってがんになる人が増えるわけではなく、むしろ、予防の勘所が特定できたり、早期発見できたり、将来の治療法への道が開けたりといういい話に繋がりうる。

 ただ、日本では「遺伝」というとなにか決定論的な響きを持つようにもぼくは感じており、「遺伝とがん」というテーマもそのあたりをちゃんと考えて語らないと、誇張されたり捻じ曲った理解につながってしまうかもしれない。

 そのように口に出すと、松田さんはこんなふうに応えた。

「今、世界中で、全ゲノム関連解析によるSNPとがんの研究が行われていて、これまでに3500以上もの報告がされてきました。見つかった発がん関連のSNPは700ほどです。特に前立腺がんや乳がんのように比較的患者が多く予後もよいものについては研究が多く、前立腺がんでは147、乳がんでは113が見つかっています。ただ、こういったものの70%は、がんのリスクのオッズ比(リスクの比)は1.3以下です。なにかひとつの発がんに関係する遺伝子を持ったら、必ずがんになるというふうなものではありません。そもそも完璧な遺伝子の人なんていませんから、だれだって数十くらいは、病気になりやすいSNPを持っているんです。特に影響が強いものがあれば、予防の時点から対処しやすいと前向きに考えられると思います」

発がん関連のSNPは続々と見つかっている。(画像提供:松田浩一)
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 こういったことは、「遺伝でがんになる」と聞いて怖くなる人には強調しておきたい。そもそも完璧な遺伝子などなく、誰もが、病気になりやすい遺伝子をいくつも持っている。かといって、それらの「なりやすい病気」に必ずかかるわけではない。

「発がんについて遺伝因子の寄与率がどれくらいかを見積もる研究がありまして、そういったものを見ていると、思っていたほど大きくないというふうに思います。まず、大規模な双生児研究では、だいたい20~40パーセントが遺伝で説明できるとされてきました。さらに、2015年、アメリカのグループが報告したものだと、がんには、いわゆる生活習慣などが関係する環境因子と遺伝的な因子、そして、Rファクター、遺伝的要因と関係のない単純な複製エラー(Replication error)に由来する3つの原因があるというんです。それで、一番大きいのがRファクターで、それだけで5割以上です。つまり、発がんの過半数は、たまたま、なんです。遺伝だからといって怖いものというふうに考えるよりは、自分の型を知ることでいかに健康状態をより保つとか、早めに発見する、自分に合った薬を選ぶといったほうに意識を向けていただくのが大事かなと思います」

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