一般集団を対象にした東北メディカル・メガバンクは、その時点で病気ではない人が多いので、長期間、集団を追いかけるいわゆる前向きのコホート研究(研究デザインについては、栄養疫学の回を参照)を前提にしている。それに対して、バイオバンク・ジャパンの場合は、すでに多くの病気の人のDNAが集まっているので、病気の人と対照群を比べる症例対照研究を行うことができる。また、各症例の「その後」も追跡しているので、疾病バイオバンク登録者をコホートに見立てた変則的なコホート研究もできる。

 松田さんのグループは、数十万箇所のSNPを全ゲノムにわたって網羅的に比較する解析を行って数多くの成果をあげており、その中でも、最初期、かつ、際立った事例が、前回の食道がんの研究だった。

 以降、多くの成果があがっているので、いくつか紹介する。研究の方向性、雰囲気が伝えられればと思う。

がんのリスクと関係のある遺伝子が続々と見つかっているという。
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 まず肝がんと、日本に多いC型肝炎ウイルス(HCV)への感染について。

「日本では、肝がんの約70%はHCV感染が原因だと言われています。HCVに感染している人の多くは慢性肝炎や肝硬変などの肝機能障害を持っており、治療をせずに放置すれば、多くの人が感染後20~40年で肝がんを発症します。しかし、症状が軽いまま安定している患者さんたちもたくさんいるんです。では、その個人間の違いを決めている要因はなにか、ということです」

 もしも、それがSNPによって決定されるものなら(特定のSNPによって大きく違うものなら)、松田さんたちの手法が大いに役立つ。そして、その明らかになったことから、治療法への手がかりもつかめるかもしれない。

「HCV陽性の肝がん、およそ700例と、HCVに感染していない対照群2900例を用いて解析を行ってSNPを絞り込み、さらに同じくらいの数の別の集団で追試しました。結果、HCV陽性で肝がんになった人たちは、MICAという遺伝子が発現しにくいタイプが多いことが分かりました」

 MICA遺伝子が発現してできるMICAタンパク質は、ウイルスに感染したりがん化した細胞に多く発現して抗原として働く糖タンパク質の一種で、免疫細胞の一つであるナチュラルキラー細胞(NK細胞)が攻撃対象を認識するための手がかりにしていることが分かっている。とすると、MICAが発現しにくい人は、C型肝炎ウイルスに感染した細胞が免疫細胞に見逃されやすくなるかもしれず、その結果、肝がんになりやすいというシナリオが描ける。最近、他にも見出されているSNPとの関連もあわせて、リスクを予測するために使えるし、やはり将来的には新しい治療法へつながる可能性もある。

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