第1回 一人ひとりに最適な医療を届ける「精密医療」とは

 東京大学医科学研究所(医科研)は、高級住宅街のイメージが強い東京都港区白金台の地下鉄駅から至近距離にある。表から見る限りは、外来診療も受け付ける「医科研病院(東京大学医科学研究所附属病院)」の関連施設として認識されているだろう。19世紀末、ドイツ留学から帰国したばかりの北里柴三郎を所長に「伝染病研究所」として設立されて以来、常にその時代の最先端の研究施設であり続けてきた。

東京大学医科学研究所付属病院の病院棟。正門から入るとまず正面に現れる。
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 一と四半世紀がほぼ経過した現在、医科研はいわゆる「精密医療」を実現するための鍵となる事業の舞台となっている。

 その事業とは、プロジェクトへの参加に同意した27万人の血液から採取した血清、精製したDNA、そして個々人の診療情報を集積して、研究利用に供する「バイオバンク・ジャパン」だ。2003年に発足して以来、登録者の「その後」もきちんと追跡しており、世界的に見て、追跡期間・参加人数ともに最長・最大級である。どんな遺伝的素養を持った人が、どんな病気になりやすかったか(なりにくかったのか)、どんな薬が効いたか(効かなかったのか)といったことを細かく研究するいわゆる「ゲノム研究」を行って、個々人により適した医療を提供しようというのが「精密医療」の基本的なアイデアだ。

 医科研内に、DNAや血清を保管する倉庫があり、それらと関連付けられた個人の診療情報のデータベースも構築されている。東京大学大学院の松田浩一教授(新領域創成科学研究科メディカルサイエンス群・クリニカルシークエンス分野)の案内で、DNA保管庫を見学することができた。松田教授は、研究者としてバイオバンク・ジャパン初期からのユーザーであり、現在では運営にも携わっている。

 実際に案内されて分かったのは、27万人分のDNAとはいっても、保管スペースはごくごく小さな面積だ。オフィス仕様のビルに導かれ、普通に廊下を歩いていたところ、壁に「DNA保管倉庫」と小さなプレートが貼り付けられていて、「こんなところに!」とまず驚かされた。セキュリティとしては指紋認証を必要とする鍵がついていたけれど、佇まいとしてはひたすらさりげなかった。ぼくの勝手な印象では、「町の図書館」くらいの規模だ。

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