世界有数のワイン産地、誕生秘話:オカナガン

氷河が生んだ絶景を望むパティオで芳醇なワインと地産地消の美食を味わう。©David McIlvride
氷河が生んだ絶景を望むパティオで芳醇なワインと地産地消の美食を味わう。©David McIlvride
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 カナダ西部、ブリティッシュ・コロンビア州の内陸部に位置するオカナガン地方は、今や世界が注目するワイン銘醸地だ。太古の昔に氷河が大地を削り取って生まれた渓谷に、オカナガン湖、スカハ湖、オソヨース湖が豊かな水をたたえる。夏の気温が高く雨が少ないうえ、日照時間は極めて長い。乾燥しているので昼夜の寒暖差が大きい。そこに変化に富んだ土壌が作用し、狭い地域でありながら多様なテロワール(気候や土壌など植物が育つ土地の特性)がもたらされている。湖へと下るなだらかな斜面一面にブドウ畑が広がり、南北に連なる渓谷に沿って180を超えるワイナリーが点在する。カナダで唯一の砂漠地帯であるこの地域を、「世界で最も美しいワイン産地」と呼ぶ人もいる。

 だが、ほんの30年余り前、この美しいオカナガン渓谷が絶望に包まれていたことをご存知だろうか。当時のオカナガンではリンゴやモモ、チェリーなどのフルーツ栽培とともに、あまり美味しくないワインが片手間につくられていた。そこに、アメリカ、カナダ、メキシコ3カ国による北米自由貿易協定(NAFTA)が締結されることになった。関税が引き下げられ、安くて質の良いカリフォルニア産ワインが流入してくれば、オカナガンのワイン産業などあっという間に飲み込まれてしまう。基幹産業のフルーツ栽培も、生産コストの高騰によって果樹園の閉鎖が相次いでいた。1994年のNAFTA発効を控え、オカナガンの農家やワイン産業は恐慌状態に陥っていた。

 追い詰められた人々は意を決し、ワイン産業の徹底改革に取り組んだ。まずは畑のブドウの木をすべて引き抜き、新たに質の良いブドウを植えるところから始めた。渓谷のあちこちで、抜いたブドウの山に火がつけられ、煙が上がった。その煙はオカナガンの人々の絶望の象徴でもあり、反撃ののろしでもあった。

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