厚く苔むす巨木の温帯雨林に覆われたハイダグワイ。© Destination BC/Ian Holmes
厚く苔むす巨木の温帯雨林に覆われたハイダグワイ。© Destination BC/Ian Holmes
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 カナダの西、太平洋に浮かぶ先住民の島ハイダグワイ。ハイダ族の人々は太古の時代から川を遡上するサーモンや森の木の実を食べ、自然と調和しながら暮らしてきた。海の近くに数家族が共に住む大きな木造の家を建て、巨大なトーテムポールを作り、そこに一族の物語を彫り込んだ。しかし、19世紀後半にヨーロッパ人が持ち込んだ天然痘などの感染症で人口の9割以上が失われ、多くの集落は廃墟となった。さらに、政府や宣教師による同化政策が追い打ちをかけ、伝統の歌や踊り、ハイダ語までが禁じられた。クレスト(家紋)や一族の歴史を刻んだトーテムポールは、宗教上の偶像崇拝だと決めつけられ、打ち捨てられた。

 ハイダ社会にとって重要な「ポトラッチ」も禁じられた。ポトラッチとは盛大な宴会のことで、婚姻や葬式など何か大きな出来事が起きたときに開催されてきた。一族の長であるチーフはみんなをポトラッチに招き、その出来事の証人になってもらう。お礼としてチーフは豪華な料理を食べきれないほどふるまい、山のような贈り物を分け与える。チーフは蓄えの大半を失う代わりに、人々からのさらなる尊敬を手にすることになる。寛大に与え尽くすことで地位を獲得してきたハイダ社会と、個人主義が主流の欧米社会とは、価値観もルールもまるで違う。宣教師や政府の役人は「ポトラッチは浪費を促す非生産的で非文明的な悪習で、文明化と布教の障害だ」と見なした。

 100年近くも禁止され途絶えていた先住民文化を復活させるきっかけを作ったのは、彫刻家ビル・リードをはじめとしたアーティストたちだった。ビル・リードの母親はハイダ族だが、父親はスコットランド・ドイツ系アメリカ人で、彼はヨーロッパ文化の中で教育を受け育った。失われたハイダ文化を求めてトロントやバンクーバーの博物館などで収蔵品を研究し、トーテムポールや彫刻を学び、先住民文化を取り戻す牽引役となった。

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