大都市らしからぬ大都市:バンクーバー
空と海が映るまばゆいガラスの摩天楼。太平洋に開かれた街は、そびえる山々や巨木の森に囲まれている。「世界一グリーンな街」を目指すバンクーバーには、自然豊かな都会のライフスタイルを愛する人々が集まってくる。バンクーバーが人気の観光地であり続けている背景には、そんな住民たちが快適で住みやすい幸せな街づくりを追求したことがある。
バンクーバーの街を歩いていると、北米の大都市らしからぬ、ある特徴に気づく。車社会につきもののハイウェイが見当たらないのだ。歴史ある街並みが生かされ、空を遮るハイウェイがないから街には解放感がある。実は1969年、ダウンタウンにハイウェイを通す計画が持ち上がったことがある。だが市民からの反対で、建設は中止に追い込まれた。この決断をきっかけに、バンクーバーではサステナブルな街づくりを求める気持ちが醸成されていく。
ハイウェイの代わりに整備されたのは、「スカイライン」という名のモノレールやバス、水上バスなどの公共交通機関だった。自転車が安心して走れる専用の「バイク・レーン」は総延長500キロ以上。そして、ほかの街では味わえないユニークな体験をさせてくれるのが、海岸沿い28キロにも及ぶ美しい遊歩道「シーウォール」だ。水上飛行機が発着し、ヨットハーバーが美しい港から広大なスタンレーパークを一周して、穏やかなビーチが続くイングリッシュベイへ。さらに高級コンドミニアムやショップが立ち並ぶ入り江を巡り、パブリックマーケットが人気のグランビルアイランドを通って住宅街キツラノまで続くコースである。
バンクーバー市は1928年から海岸沿いの農地や荒れた工場跡地などを少しずつ買い上げ、約90年かけてこのトレイルを完成させた。人々は絶景を楽しみながら、のんびり犬と散歩したり、ジョギングやサイクリングを楽しんだりする。日常を極上のひとときに変えてくれる遊歩道だ。観光客もこの道を歩けば、街の暮らしに溶け込んだような心地よさを感じる。
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