極北のサファリ:チャーチル

ホッキョクグマに出合うツアーを運営するフロンティアーズ・ノース・アドベンチャーズ社のジョン・ガンター © Frontiers North Adventures
ホッキョクグマに出合うツアーを運営するフロンティアーズ・ノース・アドベンチャーズ社のジョン・ガンター © Frontiers North Adventures
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 カナダの真ん中に位置するマニトバ州北部。もう少し行くと北極圏という場所にチャーチルの町がある。ハドソン湾が凍り始める秋、この小さな町の周辺には人口に匹敵する900頭ものホッキョクグマが集まってくる。住民とホッキョクグマが共に暮らす、世界でも類を見ない町で、「世界のホッキョクグマの首都」と呼ばれている。

 このホッキョクグマをひと目見ようと世界中からたくさんの観光客が訪れる。そもそも野生のホッキョクグマを見ることは容易ではない。通常は訪れるのが困難な地域に生息していて、見られる確率も低い。ところがチャーチルではツアーに参加すればかなりの確率で比較的簡単にホッキョクグマに出合うことができるのだ。

 人間の身長ほどもある巨大なタイヤが装備された「ツンドラ・バギー」という特殊な大型車両に乗り、観光客は極北のサファリさながら野生のホッキョクグマを観察する。一方で、好奇心いっぱいのホッキョクグマは背伸びをしてバギーに前足をかけ、窓の向こうにいる観光客をのぞき込むこともある。観光客は目と鼻の先でホッキョクグマと対面し、興奮気味にシャッターを切る。

 しかし、これはもとからあった観光ではない。ホッキョクグマがどんなに愛らしい表情やユーモラスなしぐさをしようとも、危険であることに変わりはない。オスなら体長2メートルを超え、体重600キロにもなる巨大な猛獣だ。しばしば人間の暮らしや生命を脅かすホッキョクグマを殺さずに共生しようと住民たちが決断したことが、すべての始まりだった。ホッキョクグマの生態や習性、人間の営みとクマの行動との関わりについてとことん理解を深め、1980年、チャーチルは「ポーラーベア・アラート(警戒)・プログラム」を導入した。たとえば24時間体制でパトロールしたり、ゴミの扱い方を変えたりといった自らの行動変容によって共生を実現していった。こうして世界に二つとないユニークな観光地を育ててきたのだ。

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