第6回 日本とドイツではなぜコアな理系の女性が極端に少ないのか

「理系の大学に進んだときに、父に一言言われたのが『日系企業には行くな』ということでした。日本の企業の研究開発職には、本当に女性が少なくて『現場は男性』みたいな意識が根強く残ってると。最近変わりかけているといっても、やっぱりトップがまだ年輩だから、苦労するぞと。どうせだったら外資系とか新興企業だとか、比較的に男女差別のないようなところに行きなさいというふうに言われました。結果的に、私は企業には行かなかったので、助言を役立てることもなかったんですけど。ただ、研究者ならちゃんとした論文を書けば認められるので研究者になろう、という意識はたしかにありましたね」

 そんな坂井さんが物理学科の研究室に入り、成果をあげ、ロールモデルを示したことが、「研究室の半分が女性」という環境の呼び水になったと言えるかもしれない。とはいえ、当面、女性が少ない環境は全体としては変わらない。そんな状態を変えていく方が望ましいのは明らかで(現状では、本来、そっちの方面へと進みたい女性をかなり阻んでしまっていると思う)、そのためには、政策や、社会の変化なども必要でありつつも、実際に研究者のキャリアを歩むのは個々人だ。

 坂井さんからの助言はこんなふうだ。

「ひとつ言えるのは、周りが何と言おうが、やりたいものはやりなさいっていうことですね。これ、特に女性だけでなく、若手や学生さんによく言うんです。研究者になろうというような人たちは、みなさん、興味と最低限の基礎力は、だいたい揃えてきます。そこから先は、行動力ですよね。たとえば、だめですって言われたときに、黙って受け入れているんじゃなくて、自分から動いて、何か行動を起こすみたいなことです。研究の場での遠慮は何もいいことを生みません。その場では面倒くさいなと思われても、やっぱり聞きたいことは聞くべきだし、やりたいなら行動しなさいってことです。それが結果的にその分野を進めることにもなります」

 考えてみれば、今の坂井さんの研究の積み重ねは、大もとをたどれば、富士山頂の電波望遠鏡が使えなくなった時に、黙って受け入れるわけではなく、別の方法を探したことに端を発している。結果的に、坂井さんは追いかけるべきテーマと出会い、天文学は進展した。

 そのような成功体験があちこちで回りますよう。もちろん、女性だけでなく、男性も含めて。

研究の道に進むなら「周りが何と言おうが、やりたいものはやりなさい」が坂井さんのアドバイスだ。もちろん、男女にかかわらず。
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おわり

坂井南美(さかい なみ)

1980年、高知県生まれ。理化学研究所 開拓研究本部 坂井星・惑星形成研究室 主任研究員。博士(理学)。2004年、早稲田大学理工学部物理学科を卒業。2008年、東京大学大学院理学系研究科博士課程を修了し、助教に就任。2015年、理化学研究所准主任研究員、2017年より現職。2009年に優れた博士論文を提出した研究者に贈られる井上研究奨励賞を、2013年に日本天文学会 研究奨励賞を受賞。2019年には文部科学省の科学技術・学術政策研究所による「ナイスステップな研究者」に選ばれた。

川端裕人(かわばた ひろと)

1964年、兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。文筆家。小説作品に、『川の名前』(ハヤカワ文庫JA)、『青い海の宇宙港 春夏篇』『青い海の宇宙港 秋冬篇』(ハヤカワ文庫JA)、NHKでアニメ化された「銀河へキックオフ」の原作『銀河のワールドカップ』(集英社文庫)とその“サイドB”としてブラインドサッカーの世界を描いた『太陽ときみの声』(朝日学生新聞社)など。
本連載からのスピンアウトである、ホモ・サピエンス以前のアジアの人類史に関する最新の知見をまとめた近著『我々はなぜ我々だけなのか アジアから消えた多様な「人類」たち』(講談社ブルーバックス)で、第34回講談社科学出版賞と科学ジャーナリスト賞2018を受賞。ほかに「睡眠学」の回に書き下ろしと修正を加えてまとめた『8時間睡眠のウソ。 日本人の眠り、8つの新常識』(集英社文庫)、宇宙論研究の最前線で活躍する天文学者小松英一郎氏との共著『宇宙の始まり、そして終わり』(日経プレミアシリーズ)もある。近著は、世界の動物園のお手本と評されるニューヨーク、ブロンクス動物園の展示部門をけん引する日本人デザイナー、本田公夫との共著『動物園から未来を変える』(亜紀書房)。
ブログ「カワバタヒロトのブログ」。ツイッターアカウント@Rsider。有料メルマガ「秘密基地からハッシン!」を配信中。