第4回 なんと「人工宇宙」とアルマ望遠鏡を実験室に再現!

「メタノールの同位体分子だけでも、炭素が炭素13になったものや、水素が重水素になったものなどがあります。そこで、エンリッチドサンプルという、同位体を濃集させたサンプルが売られているので、それを使って実験室で測定しているんです。細かいところまで全部見て、最終的にこれがメタノールファミリーのスペクトル線ですと出せれば、観測データと直接比較ができて、雑草、ウィードからまとめて差っ引けるようになるかもしれません。あと、メタノールそのものの存在量を出したい時などにも使えて、誤差が少ない分、存在量も温度もきちんと出せるようになります」

左の試験管に、同位体を濃集させたサンプルが入っている。
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 メタノール(CH3OH)は、炭素が1つで比較的簡単な飽和有機分子だからあちこちに存在しうる。CH3-のメチル基の部分は、とてもたくさんの種類のスペクトル線を出すことで有名だし、CにもHにもそれぞれ同位体が存在するのだから、おびただしいバリエーションが想定できる。それらをひとつひとつ見ていくというのは本当に地道なことだ。

「私たち、分子分光学者ではないですが、有利な点があって、幸いにして電波望遠鏡の受信機をつくる方はプロなんです。いわゆる分子分光装置ではなくて、望遠鏡の受信機を室内にそのまま置いて、ガスセルに欲しいガスを入れて、そのまま観測してしまえばいいんです。普段は、空を観測して、分光してデータを得ているわけですから、同じですよね」

これがその受信機。
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 へぇっと思った。

 坂井さんが指差した受信機は、実はALMAに使われているのと同タイプのものだという。つまり、この受信機がミニALMAだというのは、そういうことだ。

 そして、ガスセルは人工ミニ宇宙(あるいは、人工の星間分子雲であったり、人工の原始惑星系円盤、であったりもするだろう)。

 通常、宇宙を観測する時には、得られたデータをすべてを受け入れた上で、ああでもないこうでもないと検討することになる。しかし、ここは実験室なので、自分が知りたい物質だけを封入し、諸条件を変えて観測(測定)し放題だ。

 封入するガスもそうだが、実は温度も大切だ。

「今、常温、つまり300ケルビンくらいと、ちょっとヒーターを巻いて400ケルビン(摂氏127度)ぐらいと、2通りの温度で測定しています。実は、私たちが関心を持っている惑星ができるようなところって、数百ケルビンぐらいの温度範囲なので、その範囲で2種類測ってあげると、よい精度で分かるだろうということで」

 つまり、ガスセルの中のミニ宇宙は、さらに環境が特定されて、「惑星ができるようなところ」、原始星円盤のあたりを想定している。封入されているガスが発する微弱な電磁波を測定するわけで、受信する側の方式はラジオでおなじみの「ヘテロダイン受信」だ。ぼくたちが日々接している技術なので、とても親しみが持てた。結果はリアルタイムでパソコン画面に出て確認できる。

実験で得たスペクトル線の1例。こうしたピークのパターンによって観測した分子を特定できる。
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 こういった人工ミニ宇宙をミニALMAで観測するシステムのことを、坂井さんたちは、SUMIRE(Spectrometer Using superconductor MIxer REciver) と呼んでいた。これは、国立天文台のすばる望遠鏡で、実施される予定の 「宇宙の国勢調査」 SuMIRe計画 (SuMIRe; Subaru Measurement of Images and Redshifts) と似ていてややこしいのだが、天文学や宇宙物理の世界において2つの「スミレ」が花を咲かせようとしていることは覚えておいてよいと思う。