坂井さんの最初の観測は、野辺山の45メートル電波望遠鏡で100時間を要したと紹介した。捉えたい宇宙からの電波が微弱すぎて、普通に観測するだけでは感度が足りなかったからだ。そこで、100時間分のデータを重ね合わせることで、ノイズに埋もれていたスペクトル線をくっきりと際立たせた。これは、カメラで暗がりを撮影する時に、長時間露光すると暗いところも見えてくるのとまったく同じ理屈だ。

 一方、分解能は、いくら時間を使っても解決できない。望遠鏡の口径や観測する波長(周波数)にかかわるもので、同じ望遠鏡で同じ周波数帯を見る限り、分解能の上限は同じだ。

 そこで登場するのが、チリのアタカマ砂漠に建設されてちょうど運用を開始するところだったALMA(アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計)だ。ALMAは複数の電波望遠鏡(アンテナ)からなるいわゆる干渉計というタイプのもので、アンテナのひとつひとつは12メートル(54台)や7メートル(12台)と比較的小さい。しかし、それらを離して配置して、受信した電波をひとつの巨大な望遠鏡のものとして扱うことで、実質的な口径を大きく取ることができる。

 2011年に試験運用が始まった時、坂井さんの提案も採択されて、2012年に観測が実現した。

チリのアタカマ砂漠にあるアルマ望遠鏡。(画像提供:坂井南美)
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「ALMAの分解能は、これまでの100倍以上なので、原始星やその周囲のガスの様子を分けて見ることができました。私たちとしては、外側のガスから、原始星の周りにできている円盤、つまり、太陽系の大きさのようなスケールのところまで、炭素鎖分子が届いているかどうかが見たいわけです。観測データを見て、予想通り炭素鎖分子がそこまで届いていると分かりました。私たちが主張していた通り、原始星の円盤の化学組成は、飽和したギ酸メチルのようなものだけではなく、炭素鎖分子のような不飽和な場合もあり、つまり多様だと言えたわけです。でも、それだけではなかったんです」

 化学組成について追い求めようとした坂井さんたちは、ここで原始星の構造や運動といった物理的な側面に踏み込むことになる。

「たとえば、炭素鎖分子は、原始星から100天文単位(150億キロ程度。1天文単位は地球と太陽の距離)の外側で見つかるのに、それより内側には見当たらなかったんです。一方、一酸化硫黄(SO)という物質は、ちょうどその100天文単位のあたりで急に増えて、その内側にも見られます。これは、100天文単位のところで、何か化学的な変化が起きているということです。それで、こういった分子がどんな運動をしているのかドップラー効果を見ると、どうやら、そこが原始星の円盤の端だと考えるのが一番妥当だと分かったんです」

 原始星の周りの降着円盤には、外からいろいろなものが原始星の周りを回転しながら落ちてくる。それはのちのちに惑星系に発展するもとになるものだから「原始惑星系円盤」などとも呼ばれる。さらにもっと遠くなって「エンベロープ」と呼ばれるようなガス雲の広がりに至るまで連続的にスムーズにつながっていると以前は考えられてきた。しかし、坂井さんたちが見出したのは、明確な区切りがあるということだ。

 これはむしろ物理学的な説明ができるという。

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