第1回 「星々の進化系統樹」の謎に挑む今注目の研究者

 埼玉県和光市にある理化学研究所の入り口には、同研究所の仁科加速器科学研究センターでの発見の結果、2015年に命名権を獲得した113番元素「ニホニウム」の碑がたてられていた。そこからさらに10分くらい構内を歩くと、「物質科学研究棟」という建物にたどり着く。それが「坂井星・惑星形成研究室」の居処だ。つまり日本でも屈指といえる理化学研究所の「物質科学」の本丸に天文学系の研究室があるという不思議なたたずまいだ。

 ドアをくぐると、博士研究員や学生、秘書さんたちの席がある部屋があり、坂井さんの居室はさらにその奥だった。

 坂井さんは自らの研究について、こんなふうに説き起こした。

私たちが住んでいるこの太陽系がどういうふうにできたのかを知りたい、と坂井さん。
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「みなさん、宇宙の研究と聞くと、ビッグバンですとか宇宙のはじまりの研究をイメージされる方が多いんです。でも、私の場合はそうじゃなくて、宇宙のはじまりというよりは、私たちの住んでいるこの太陽系が、宇宙の歴史の中でどういうふうにできてきたのか、つまり、太陽や惑星ができるはじまりの部分の研究をしているんです。原子から分子ができて、複雑な分子ができて、惑星の環境が作られていくという、私たちの世界の化学組成の上での起源が知りたいということでもあります」

 宇宙の研究、それも起源にかかわる研究には様々な観点があり、その中でもやはり人気があるのは、インフレーションやビッグバンといった宇宙自体のはじまりを問うものだ。本シリーズの中でも、ドイツ、マックス・プランク宇宙物理研究所の小松英一郎所長のインタビューを掲載したことがあるし、大きな書店に行けば、「宇宙のはじまり」をめぐる一般書をたくさん見つけることができるだろう。

 一方で、輝く星々やその周りにできる惑星がどういうふうに形成されてくるかというのは、相対的にそれほど人気がある分野ではないという。もちろん、研究者はたくさんおり、誰もが重要な研究テーマだと認めているのだけれど、なぜか、日本での一般的な関心という意味で。

「本音は、宇宙のはじまりから全部理解したいんですが、それは自分一人でも、一世代でも、できることではないので、その中で一番知りたいのはどこだろうと思ったときに、私はこっちに惹きつけられたんです」

 そんなふうに言って、笑う。

 坂井さんの研究を知るために、まずは前提となる知識から始める。