第6回 恐竜が絶滅した「瞬間」の化石が見つかった!

「本当に今、いろいろおもしろいことが分かってきていて、今年になって論文になったアメリカのノースダコタ州の化石産地なんて、僕はかかわっていないんですが、何千年どころか1時間とか45分という話なんです」

 6600万年前の出来事を数時間の時間単位、分単位で追う?

 ちょっと想像を絶する。

「K/Pg境界のところに恐竜たちが大量死して、屍が累々としているような地層があるはずだから、それを見てみたいと思いますよね。でも、そういう地層ってこれまで全然見つからなかったんですね。たくさん死んだとしても、そこに化石になる条件が整っていなければ、化石ってできないわけですから。それがとうとう見つかったという話です」

 うわーっと思う。「その瞬間」が見つかったというのは、本当に決定的だ。

「淡水魚や、場所によってはアンモナイトや部分的にはトリケラトプスなど恐竜の化石なんかも入っている地層です。隕石が衝突したユカタン半島からは3000キロくらい離れていて、隕石衝突後に岩石が溶けて巻き上げられたマイクロテクタイトが入っているのが見つかりました。一部の魚を見ると、エラのところにまで入り込んでいて、要するに窒息死させるぐらいの量だったのでしょう。でも、ここからはイリジウムは出ないんです。マイクロテクタイトが降ってくるのは、衝突の後、45分くらい。一方、イリジウムはもっとゆっくりと、10時間以上後に落ちてくるので」

 つまり、隕石衝突後1時間のレベルでの大量死を捉えたという主張なのである!

 もっと具体的に言うと、その地層はもともと淡水の内海だったところにできたもので、衝突から10分以内に地震波による水面振動「静振(津波ではないことに注意)」が発生し、さらに45分以内にガラス質の小球であるマイクロテクタイトが赤熱した状態で降り注いだ。それによって死んだ動物たちは、その後、静振によって巻き上げられていた土砂とマイクロテクタイトが混じった堆積物の中に巻き込まれて化石化した……。

 これには本当に驚かされる。この発掘地はさらに精査されるだろうし、他にもそのようなものが見つかるかもしれないと胸が高鳴る。

「1980年にアルバレズ親子が隕石衝突説を出して以来、40年近くみんな探してきて、まあ、こんなものも見つかりました、ということです。これは、本当にジグソーパズルで、全然離れたピースが、たまたま、あ、ここだねって分かったみたいな感じなんで、まだまだ分からないところのほうが多いというのが本当のところです」

 分からないところの中には、当然ながら、アジアも含まれる。日本など、いまだブラックボックスに近い。

 真鍋さんの世代の、海外で学び、日本に成果を還元してきた研究者や、それに続く新世代の研究者たちによって、そのブラックボックスに光が当てられて、今は闇に包まれた中身を垣間見ることができるようなればいいと願う。

令和の時代には、真鍋さんが芽吹かせた研究の枝は長く伸び、ますます大きな花を咲かせるだろう。
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おわり

真鍋真(まなべ まこと)

1959年、東京都生まれ。国立科学博物館 標本資料センター長・コレクションディレクター、分子生物多様性研究資料センター長。博士(Ph.D)。恐竜など中生代の化石から読み解く爬虫類、鳥類の進化を主な研究テーマとする。1984年、横浜国立大学教育学部卒業。同大学院修士課程を86年に修了後、米イエール大学院修士課程を経て、94年、英ブリストル大学理学部地質学科で博士号(Ph.D)を取得。同年に国立科学博物館地学研究部に勤務し、地学研究部生命進化史研究グループ長などを務めた後、2016年4月より現職。『恐竜博士のめまぐるしくも愉快な日常』(ブックマン社)『恐竜の魅せ方 展示の舞台裏を知ればもっと楽しい』(CCCメディアハウス)『深読み! 絵本『せいめいのれきし』』(岩波科学ライブラリー)『大人のための恐竜教室』(共著、ウェッジ)など著書多数。『せいめいのれきし 改訂版』(監修、岩波書店)など、監修も多くて手掛けている。

川端裕人(かわばた ひろと)

1964年、兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。文筆家。小説作品に、『川の名前』(ハヤカワ文庫JA)、『青い海の宇宙港 春夏篇』『青い海の宇宙港 秋冬篇』 (ハヤカワ文庫JA)、NHKでアニメ化された「銀河へキックオフ」の原作『銀河のワールドカップ』(集英社文庫)とその“サイドB”としてブラインドサッカーの世界を描いた『太陽ときみの声』(朝日学生新聞社)など。
本連載からのスピンアウトである、ホモ・サピエンス以前のアジアの人類史に関する最新の知見をまとめた近著『我々はなぜ我々だけなのか アジアから消えた多様な「人類」たち』(講談社ブルーバックス)で、第34回講談社科学出版賞と科学ジャーナリスト賞2018を受賞。ほかに「睡眠学」の回に書き下ろしと修正を加えてまとめた『8時間睡眠のウソ。 日本人の眠り、8つの新常識』(集英社文庫)、宇宙論研究の最前線で活躍する天文学者小松英一郎氏との共著『宇宙の始まり、そして終わり』(日経プレミアシリーズ)もある。近著は、世界の動物園のお手本と評されるニューヨーク、ブロンクス動物園の展示部門をけん引する日本人デザイナー、本田公夫との共著『動物園から未来を変える』(亜紀書房)。
ブログ「カワバタヒロトのブログ」。ツイッターアカウント@Rsider。有料メルマガ「秘密基地からハッシン!」を配信中。