第3回 恐竜絶滅の謎を解く鍵と、その意味とは

 結局、発見できる、ある、ということを周知することが、「あるはずない」というバイアスを除去することになり情報量を押し上げる。日本でもそれがこの数十年起きてきたわけだし、これからもっと起きるとよい。「多くの目」に期待しよう。というか、期待したい! とぼくは切に思う。

 さて、そのような願いや期待をかけた上で、真鍋さんはどのあたりにゴールを定めるのだろうか。

「恐竜がいなくなった主な原因が隕石だろうというのがコンセンサスになったといっても、デカン高原を作った火山活動が無関係だと思っている研究者もまずいないんです。つまり、両方が関係していたことは間違いなくて、これからは、もっと詳しく、この時にデカン高原で起こった火山活動によって、こういうことが悪化したけれど、実は哺乳類が生き残るには逆にプラスに働いたですとか、デカン高原に起因する環境変化の生物進化への影響を何らかの方法で特定できたら、一定の前進かなと思っています」

 そして、このように付け加えた。

「今、私たちの時代は、第6の大量絶滅が起きているというふうに言われているわけですけど、それが本当なら、直近の絶滅は、白亜紀末のものなんです。今、起きていることを理解するためには、白亜紀末の絶滅を理解しておかないとまずいだろうというのが、この研究の現代的な意味かもしれないというふうに思っています」

 隕石の衝突による恐竜の絶滅と、人類の活動が原因となった現代の絶滅について、単純に比べるのは無理があるのでは、とぼくは、以前、考えていたように思う。しかし、真鍋さんと白亜紀末の出来事についてひとしきり語るうちに、実は大いに関係しているどころか不可分であるとすら感じるようになった。

 原因が何にせよ環境を激変させているのは人間も同じだ。もちろん、隕石の衝突は一瞬にしてすべてを変えてしまったけれど、人間もそれに準ずるくらいの急激な変化をもたらしている。それらがどれくらい似ていて、どれくらい違うのか知ることは大いに意味がある。つまり、白亜紀末の絶滅は、現在進行形の大量絶滅の当事者であるぼくたちにとって、必要不可欠なリファレンスなのである。前述した2010年のサイエンス論文を執筆した著者たちの大多数が、古生物ではなく、地質学、地球物理学、惑星科学といった、地球環境を研究する諸科学の最先端をいく研究者たちでもあるのはむしろ当然のことだ。

つづく

真鍋真(まなべ まこと)

1959年、東京都生まれ。国立科学博物館 標本資料センター長・コレクションディレクター、分子生物多様性研究資料センター長。博士(Ph.D)。恐竜など中生代の化石から読み解く爬虫類、鳥類の進化を主な研究テーマとする。1984年、横浜国立大学教育学部卒業。同大学院修士課程を86年に修了後、米イエール大学院修士課程を経て、94年、英ブリストル大学理学部地質学科で博士号(Ph.D)を取得。同年に国立科学博物館地学研究部に勤務し、地学研究部生命進化史研究グループ長などを務めた後、2016年4月より現職。『恐竜博士のめまぐるしくも愉快な日常』(ブックマン社)『恐竜の魅せ方 展示の舞台裏を知ればもっと楽しい』(CCCメディアハウス)『深読み! 絵本『せいめいのれきし』』(岩波科学ライブラリー)『大人のための恐竜教室』(共著、ウェッジ)など著書多数。『せいめいのれきし 改訂版』(監修、岩波書店)など、監修も多くて手掛けている。

川端裕人(かわばた ひろと)

1964年、兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。文筆家。小説作品に、『川の名前』(ハヤカワ文庫JA)、『青い海の宇宙港 春夏篇』『青い海の宇宙港 秋冬篇』 (ハヤカワ文庫JA)、NHKでアニメ化された「銀河へキックオフ」の原作『銀河のワールドカップ』(集英社文庫)とその“サイドB”としてブラインドサッカーの世界を描いた『太陽ときみの声』(朝日学生新聞社)など。
本連載からのスピンアウトである、ホモ・サピエンス以前のアジアの人類史に関する最新の知見をまとめた近著『我々はなぜ我々だけなのか アジアから消えた多様な「人類」たち』(講談社ブルーバックス)で、第34回講談社科学出版賞と科学ジャーナリスト賞2018を受賞。ほかに「睡眠学」の回に書き下ろしと修正を加えてまとめた『8時間睡眠のウソ。 日本人の眠り、8つの新常識』(集英社文庫)、宇宙論研究の最前線で活躍する天文学者小松英一郎氏との共著『宇宙の始まり、そして終わり』(日経プレミアシリーズ)もある。近著は、世界の動物園のお手本と評されるニューヨーク、ブロンクス動物園の展示部門をけん引する日本人デザイナー、本田公夫との共著『動物園から未来を変える』(亜紀書房)。
ブログ「カワバタヒロトのブログ」。ツイッターアカウント@Rsider。有料メルマガ「秘密基地からハッシン!」を配信中。