まずは、そんな全地球的な影響を与えるような巨大隕石が本当に落ちたのだろうか、ということ。

 また、かりに本当に巨大隕石が衝突したとして、それが大量絶滅の原因だと言えるのか、という点。

 前者については、実際に巨大隕石のクレーターが見つかったことで、大きく進展した。

「1991年、メキシコのユカタン半島の地下のところに大きなクレーターが見つかりました。白亜紀末には、そのあたりは浅い海だったと考えられていて、隕石が落ちてきた時、隕石自体は粉々に砕けつつ、地表にものすごい衝撃を加えてクレーターを作りました。その時にできた衝撃石英という特有の鉱物もクレーターの中から見つかりました。一方、クレーター以外の場所からは、衝突の時の熱で起きた火災で乱された堆積物や、岩石が溶けて大気中に巻き上げられ降り注いだマイクロテクタイト(小さなガラス質の粒)や、直後に起きた津波の堆積物などがどんどん見つかってきました。これらは、やはり衝突の中心に近いほど乱された度合いが大きくなる傾向があります。そして、隕石説のきっかけになったイリジウムも、衝突のクレーターに近づけば近づくほど含有量がすごく高くなることがわかりました。ということで、もう大きな隕石がぶつかったんだということは間違いないだろう、ということになりました」

隕石衝突のCG(© NHK)
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 実は、イリジウムの供給源についても、地球内部から火山活動を通じて出てきたものだという説が根強くあったものの、この発見以降は旗色が悪くなったという。

 また、地球全体の気象や様々な事象を扱うことができるコンピュータ・シミュレーションの手法が開発され、もしもこの規模の隕石が落ちたらどんなことが起きるのか様々な観点から語ることができるようになったのも大きい。どうやら、本当に短期的、長期的、双方の観点から破滅的な環境変化を引き起こしたことは間違いなさそうなのである。

 では、実際に、恐竜の化石証拠は、隕石衝突説を支持しているだろうか、というのが次の問題だ。そこで、恐竜の多様性は、白亜紀の後半に徐々に落ちていったという当時の「常識」を再検討する動きが始まり、真鍋さんもそこに参画することになる。

つづく

国立科学博物館特別展「恐竜博2019」開催

2019年7月13日(土)から10月14日(月・祝)まで、東京上野の国立科学博物館で「恐竜博2019」が開催されます。開館時間、休館日ほか、詳細は公式ホームページをご覧ください。

真鍋真(まなべ まこと)

1959年、東京都生まれ。国立科学博物館 標本資料センター長・コレクションディレクター、分子生物多様性研究資料センター長。博士(Ph.D)。恐竜など中生代の化石から読み解く爬虫類、鳥類の進化を主な研究テーマとする。1984年、横浜国立大学教育学部卒業。同大学院修士課程を86年に修了後、米イエール大学院修士課程を経て、94年、英ブリストル大学理学部地質学科で博士号(Ph.D)を取得。同年に国立科学博物館地学研究部に勤務し、地学研究部生命進化史研究グループ長などを務めた後、2016年4月より現職。『恐竜博士のめまぐるしくも愉快な日常』(ブックマン社)『恐竜の魅せ方 展示の舞台裏を知ればもっと楽しい』(CCCメディアハウス)『深読み! 絵本『せいめいのれきし』』(岩波科学ライブラリー)『大人のための恐竜教室』(共著、ウェッジ)など著書多数。『せいめいのれきし 改訂版』(監修、岩波書店)など、監修も多くて手掛けている。

川端裕人(かわばた ひろと)

1964年、兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。文筆家。小説作品に、『川の名前』(ハヤカワ文庫JA)、『青い海の宇宙港 春夏篇』『青い海の宇宙港 秋冬篇』 (ハヤカワ文庫JA)、NHKでアニメ化された「銀河へキックオフ」の原作『銀河のワールドカップ』(集英社文庫)とその“サイドB”としてブラインドサッカーの世界を描いた『太陽ときみの声』(朝日学生新聞社)など。
本連載からのスピンアウトである、ホモ・サピエンス以前のアジアの人類史に関する最新の知見をまとめた近著『我々はなぜ我々だけなのか アジアから消えた多様な「人類」たち』(講談社ブルーバックス)で、第34回講談社科学出版賞と科学ジャーナリスト賞2018を受賞。ほかに「睡眠学」の回に書き下ろしと修正を加えてまとめた『8時間睡眠のウソ。 日本人の眠り、8つの新常識』(集英社文庫)、宇宙論研究の最前線で活躍する天文学者小松英一郎氏との共著『宇宙の始まり、そして終わり』(日経プレミアシリーズ)もある。近著は、世界の動物園のお手本と評されるニューヨーク、ブロンクス動物園の展示部門をけん引する日本人デザイナー、本田公夫との共著『動物園から未来を変える』(亜紀書房)。
ブログ「カワバタヒロトのブログ」。ツイッターアカウント@Rsider。有料メルマガ「秘密基地からハッシン!」を配信中。

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